2021年5月7日現在インドでは新型コロナウイルス感染者が1日で 40万人を超え、お亡くなりになる方が日に3000人、延べ23万人に迫る勢いです。
インドの状況
インドはご存知のように人口 13億人を超え、多宗教多民族からなる国家です。28州、8連邦直轄領から構成されます。
17世紀にムガール帝国として繁栄し、その後イギリス統治、冷戦に伴う社会主義化、シン首相によるグローバル化の推進、そして現モディ首相下でのナショナリズムを軸にこれから羽ばたこうとしている若い人たちが多い国です。
貧富の差が激しいといわれトイレのない家も多く感染拡大の背景になっている可能性が指摘されています。感染はデリー、チェンナイ、バンガロールなどの大都市から地方へ拡大してきており、ケーララ州やラダック連邦直轄領でも人口10万人あたり4000人を超えてきています。
あまりにも急で爆発的な感染拡大のために病院のベッドは満床であり、電話回線がパンクして連絡さえつかないくらいだと聞いています。体育館や電車が臨時のベッドに充てられていますが、この感染がもたらす肺炎によって酸素が必要にな状態になりますが、全土で酸素ボンベが全く足りていません。道端や車中で酸素を吸入している光景の報道を目にします。酸素が当面の間は持続的に必要なはずなのに酸素が底をついたり、時間が経ったら止めざるを得ないのです。
インドにおけるコロナウイルスによる死亡者の傾向:若年者の死亡も起こっている
2020年12月から2021年4月までのインド国内の統計をみた統計があり死亡した56,288人のうち男性が7割、50歳以上が 77%を占めています。また割合は非常に低いのですが10歳未満の死亡者が 289人、10歳以上20歳未満の死亡者が 397人おられることは少し脅威です。このウイルス感染に対する世界の認識では若年者が亡くなることは極めて稀だと考えられているからです。
参考までに昨年2020年に小児のコロナウイルス感染についてまとめていますのでご参照ください。
http://ko-island.yokatoko.com/pr/uemura/2020/07/15/子供における新型コロナウイルス感染症について/
どうしてインドで感染が急拡大したか?
・未発達な公衆衛生
・ワクチン接種率の低さ
・多重変異 が挙げられます。
インド型変異株 (B.1.617) は2020年10月に初めてインドで発見されその後大都市ムンバイを巻き込みながら急速にインド全土に拡大していきました。日本の検疫でもすでに検出されています。
インド変異株の特徴はスパイクタンパク質(ウイルスのトゲの部分)の人の細胞に接する受容体結合ドメイン(下図ベージュ色 3領域)の変異だけでなく別の領域にも変異が起きていることです。
この新型コロナウイルスが人の細胞に入ってきて増殖するにあたりウイルスが furinとTMPRSS2 という2つの人間の持っている分解酵素によって切断される(専門用語では開裂 ; cleavageと言います)ことが必要なことがわかっています。そのfurin による開裂を受ける部位 P681R (下図青)に変異が起こり感染力が高まっているのではないかと言われています。
Convergent evolution of SARS-CoV-2 spike mutations, L452R, E484Q and P681R, in the second wave of COVID-19 in Maharashtra, India
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.04.22.440932v1.full.pdf
この論文では2020年12月から2021年3月まで州都ムンバイを抱えるマハーラシュトラ州でのウイルスの変異をみています。
受容体結合ドメインにおける変異はイギリス型に代表されるN501Y ではなくL452RとE484Q(上図緑丸)があり、感染力が強まったり、中和作用が低下したりする可能性が言われています。
また上記に書きましたように受容体結合ドメイン以外で furin によって切断される部位の P681R(上図青丸)に変異をきたすことによってウイルスが開裂しやすくなり感染力が増すのではないかと言われています。
今のところ変異によって感染力が高まり感染者が増加してその結果重症者が増加するということはあっても、変異そのものによって重症化するということではないようです。
今後もウイルスが変異していくことが予測されますが、コロナウイルスの遺伝子のどの部位に変異が起きているかが分かるようになってきており、コロナ感染が落ち着くまではやみくもに不安にかられることなく、各自が予防に努めてワクチンを接種し、そして治療薬の開発がさらに進んでいくことを願っています。
文責 植村 健 http://www.koseikai-uemura.jp/