新型コロナウイルスについて(2020年7月編集総合版) 

 

2019年冬に中国武漢市から世界中に急拡大してきた新型コロナウイルス感染症 (covid-19、SARS-CoV-2) について現状分かっていること、予防を含めた対応方法、治療やワクチンの試みなどについてまとめてみましたのでご参照ください。読んでいただく皆様の健康に少しでもお役に立てられたら幸いです。

 

内容が増えて長くなってきましたので分かりやすいように項目別に読めるようにしました。

 

http://ko-island.yokatoko.com/pr/uemura/2020/05/03/コロナウイルスの症状と診断について/

http://ko-island.yokatoko.com/pr/uemura/2020/05/02/新型コロナウイルスの性質%e3%80%80/

http://ko-island.yokatoko.com/pr/uemura/2020/05/02/コロナウイルスにかからないようにするために/

http://ko-island.yokatoko.com/pr/uemura/2020/05/01/コロナウイルスに対する治療の試み/

 

 

急速な拡大に対して各国はどのようにしたらこれ以上の拡大を抑えていけるかに苦慮しています。有効な治療薬や予防ワクチンがまだ確立していない現在、できるだけ人の集まらないところで

対人間を2メートル以上あけること ( Social Distancing ) や

家 (stay at home) で過ごすこと、

手洗いを頻回に行うこと、

手で顔を極力で触らないこと

をみなさんで意識し共有することが大切である気がします。各自が意識して準備行動していく行動変容の大切さがこの疾患において認識されています。

自分たちの身を守るためにも、そして重症化しやすいご高齢の方やがんなどの病気と闘っている方々を守るためにも。

 

 

Johns Hopkins による現在のコロナウイルスの世界統計をリンクでみることができます。

 

2020年4月

感染状況は各国により異なります。現在一旦ピークを越えた中国もあればこれから拡大していくと予測される国々もあります。統計では死亡者が増加していくとピークは3-4週間先の国が多いです。

日本は死亡者数からするとまだ少ないほうです。その理由として

まだ世界に拡大してない時期から日本に停泊していたダイアモンドプリンセス号の状況を国民が見守って感染予防に早くから努めていたこと、

クラスターに対して行政各機関が早期に対応していたこと

人種間で異なる遺伝的背景があるかもしれないこと

も影響しているのかもしれません。これから他国のように重症者や死亡者が増加しないことを願うばかりです。

 

 

 

 

 

2020年4月末における日本での流行は皆さん報道でもご存知だと思います。

上表左赤丸が今の日本の置かれている状況であり、総死亡者50人を超えてからの増加をみています。グラフの傾きがまだ上向きであり予断を許さない状況であることが確認できます。感染ルートが追えないもしくは特定できない市中感染が増加しています。

 

 

基本再生産係数 R0(basic reproductive number)について

一人の罹患者が周りの人に感染させる数を基本再生産係数 R0(basic reproductive number)と言います。流行状況の指標の一つです。

例えば一人の患者さんが周りの他の2人に移したとすれば基本生産係数 Ro は2になります。R0 が1 未満になると流行は収束していく方向に向かいます。

他の疾患では麻疹(はしか)は12-18、風疹は5-8、流行性耳下腺炎は4-7、エボラ出血熱は1.7-2.3、インフルエンザは1-2と言われています。

今回の新型コロナウイルス感染症はWHO(世界保健機関)から1.4-2.5と発表されましたが実際はこの数字よりも高い可能性があると言われています。経済を再開させたり、学校の授業を再始動させるうえで基本再生産係数の変化が重要視されています。

香港大学公共衛生学院では香港における罹患者数や総死亡者数の他にリアルタイムでの基本再生産係数Ro を日々公表しています。2020年4月末現在香港ではRo が1未満の状態が続いていることが確認されます。

 

 

 

 

コロナウイルスとは

従来のコロナウイルスは風邪の原因の1割から3割を占めていたウイルスです。風邪ウイルスのひとつであるライノウイルスの流行が少ない時期にコロナウイルスによる風邪がみられていたこともありました。

ウイルスは大別してDNAウイルスとRNAウイルスがあります。

新型コロナウイルスは被膜(エンベロープ)をもつ一本鎖 RNAウイルス です。下記に電子顕微鏡写真と構造を示します。

ちなみにインフルエンザウイルス、エボラウイルス、風疹、はしかもこの被膜を持つRNAウイルスの仲間になります。電子顕微鏡で見ると直径は65ー200ナノメートルと非常に小さく大小様々な大きさのものがあるとのことです。

コロナウイルスには風邪の原因としての229E、OC43、NL63、HKU-1の4種類が知られており、それに加えて2003年に中国広東省を起源としたSARS (重症呼吸器症候群)が、2012年には中東を起源としたMERS(中東呼吸器症候群)が起こりました。

SARS、MERS、今回の新型コロナウイルス感染症は動物から人にうつったことをきっかけに人から人に感染し、急速に重症化をひき起こすコロナウイルス群です。

 

 

 

 

MERS(中東呼吸器症候群)から学べる事(2012年から2019年までの総括)

2012年にサウジアラビアを中心に起きたMERS(中東呼吸器症候群)に関して今回の新型コロナウイルス感染と多くの類似点がみられておりまとめてみます。

MERSは2012年から2019年までに2499人に罹患し858人の死者を出しています(致死率 34.3%)。罹患者は男性64%女性36%と男性に多く、国別ではサウジアラビアの次に韓国が多いです。ヒトコブラクダを介して人から人へ感染しました。

下記表の下に見られますように2012年から2019年まで流行を繰り返していたことに注意が必要です。発症するまでの潜伏期は2-14日(中央値5.2日)。糖尿病、心、肝、腎臓病、がん、60歳以上のかたは潜伏期が長かったり、ウイルスの排出が長期に及んだり、重症化がみられました。

新型コロナウイルスと同じく重症化する際は発熱後急速に咳が出て呼吸状態が悪化し、多臓器不全が進行するという特徴があります。また無症候性から軽症者は 25-50%にみられています。5 歳以下の感染は38名確認されうち2名が重症化しています(この2名は腎臓に基礎疾患がありました)。

 

 

今回の新型コロナウイルス(COVID19)もこのコロナウイルスが動物を経て人間に移り病原性を獲得して人から人へうつったものと考えられています。遺伝子を探っていくとコウモリが人にうつったかもしくはコウモリから他の動物を介して人にうつったと考えられています。

 

 

 

新型コロナウイルス感染症の症状と経過

潜伏期という感染しても症状がまだ出てこない時期(2-14日間、中間値5日)を経て感冒様症状(寒気、頭痛、発熱、筋肉痛)が出現します。味覚嗅覚障害が出現することもあります。

軽症で終わる方が多い(約8割)ですが、痰の出ない咳、呼吸困難をきたしていくこともあります。特に両側にみられる肺炎像が急速に進行することがあり、体内の酸素が維持できない場合は人工呼吸器による治療を開始します。そしてさらに酸素化が図れない場合はECMO(体外式膜型人工肺)への治療へ切り替えることもあります。そうすると多臓器不全になり生命をおびやかす状態になります。

潜伏期に関してインフルエンザウイルスが1−4日間、胃腸炎で知られるノロウイルスが1−2日間と比較すると新型コロナウイルスは最大14日間と長いことが特徴です。つまりかかってから症状が出現するまで2週間近くもあり、その間気づかずにウイルスを排出しながら日常生活を送り感染を広げてしまっている可能性があります。

また症状が改善してもしばらくウイルスを排出することが知られており(別項にて後述しています)、もしかかって具合が良くなったとしてもしばらく自宅安静するなどウイルスを市中に拡大させない方策が必要になってきます。

 

 

 

 

新型コロナウイルス感染症の年齢性別、症状、併存症の特徴

2020年4月末にInternational severe acute respiratory and emerging infections consortium (ISARIC)より25か国19809人における新型コロナウイルス感染症の年齢性別特徴、症状、併存症についての報告がありました。次第にこの疾患の臨床像が分かってきています。

 

 

表①より 罹患者及び死亡者(青)は男性に多く80歳前後に多い。

高齢者ほど退院(緑)より治療中(赤)が多い。

 

表②より 症状は多い順に発熱歴 (69%)、息切れ (63%)、乾性咳嗽:痰の出ない咳(45%)、倦怠感気分不良 (37%)、意識障害 (19%)、筋肉痛 (18%)、下痢 (17%)、嘔気嘔吐 (16%)、胸痛 (12%)、頭痛 (11%)、咽頭痛 (9%)、喘鳴 (8%)、腹痛 (8%)、関節痛 (6%)の順です。

鼻汁の頻度は多くない (4%) ですが、鼻汁の有無でコロナウイルス感染と風邪が区別できるものではないことに注意が必要です。

リンパ節腫脹 (0.6%) や結膜炎 (0.5%) はさらに頻度は少ないです。

 

表③より コロナウイルスにかかった人の併存疾患(持病)を見ると心臓病、糖尿病、肺疾患、喘息、慢性腎臓病、肥満、認知症、パーキンソン病などの神経疾患、癌、リウマチ疾患、喫煙、血液疾患、肝臓病、栄養失調、HIV、妊娠の順になっています。

 

 

 

新型コロナウイルス関連胃腸炎に関して

新型コロナウイルス 感染症による消化器症状を見ていきましょう。

コロナウイルスが人の細胞に入り込む際に最初に接合する酵素がACE2 (angiotensin converting enzyme 2) です。肺胞上皮だけでなく小腸上皮にも多く局在していることが知られています。上記のISARICからの報告では下痢 17%、嘔気嘔吐 16%、腹痛 8% が見られます。

通常のウイルス感染による胃腸炎の症状と変わらないように見えますが、コロナウイルスによる胃腸炎が起きるメカニズムは通常のウイルス性胃腸炎と異なるかもしれないという報告です。

 

Abdominal Imaging Findings in COVID-19: Preliminary Observations.

DOI:10.1148/radiol.2020201908

 

この論文によると消化液の通り道である胆道系の流れが悪くなり、胆汁が胆嚢内に溜まる胆泥が 54%(胆嚢腫大有り)、5 %(胆嚢腫大無し)に見られます。また大腸の腸管壁肥厚が17 %、小腸の腸管肥厚が12 %に見られ、腸管気腫、門脈ガスが10 %に見られました。門脈ガスは主に腸管壊死が起きた際に起こる予後不良で比較的まれな疾患です。

ノロウイルスに代表されるウイルス性胃腸炎はウイルスが食べ物などに付着して口から入ることによって感染する経口感染と考えられていますが、この新型コロナウイルスが胃腸炎を起こす原因に関しては

腸管粘膜の下にある微小血管に血栓が詰まり腸管を虚血の状態にさせる

ことで症状を起こすという別のメカニズムが示唆されます(右上病理像①)。

 

微小血管に血栓が詰まって悪さをしているということが一つの病因だとすると心不全、脳梗塞、腎不全がどうしてこの感染症で起きるのかについての説明が一元的にできるかもしれません。

 

 

 

コロナウイルスによる脳神経症状について

神経は中枢神経(下図赤色)と末梢神経(下図青色)からなります。中枢神経は脳と脊髄からなり、末梢神経は中枢神経と各器官を結んでいます。神経系は運動や感覚の情報をやりとりしている通り道です。

今回のコロナウイルス感染症において様々な神経症状が出現することが報告されており紹介します。

 

Neurologic Manifestations of Hospitalized Patients With Coronavirus Disease 2019 in Wuhan, Chin

DOI: 10.1001/jamaneurol.2020.1127

 

この論文は中国武漢市の病院から発表されました(下図上)。2020年1月から2月にかけて新型コロナウイルス感染症で入院した 214名の神経学的所見を調べた報告です。

214名中 78人 (36.4%) に神経所見が見られました。

めまい (16.8%)、頭痛 (13.1%)、意識障害 (7.5%)、脳卒中 (2.8%) などが認められています。よく知られている味覚障害は 5.6%、嗅覚障害は 5.1%にみられています。報道などで伝えられている割に意外と少ない印象がありますが、感覚は主観的なものでもあり正確な定量が難しいことも起因しているかもしれません。

さらにこの214名を重症群と非重症群とに分けて特徴がないか比較検討しています。

重症群では高血圧などの基礎疾患の合併例が多いこと、発熱や咳などのこの感染症に典型的な症状がみられない例もあること、神経学的所見では見当識障害、脳卒中、骨格筋損傷が多いことが報告されました。

 

 

コロナウイルスにかかっても多くの方は軽症もしくは無症状で経過すると言われていますが、重症化したり命を落とす方がおられることも事実です。何よりも重症化した方の命をいかに救い、元通りの健康的な生活にできるだけ早く戻っていただけるかが重要であり、我々医療従事者が目指している目標です。そういう意味で重症者の神経症状についての報告も取り上げてみます。

 

Neurologic Features in Severe SARS-CoV-2 Infection

DOI: 10.1056/NEJMc2008597

 

この論文はフランス Strasbourg の病院から発表されました(上図下)。

2020年3月から4月にかけてコロナウイルス感染症にかかり集中治療室で治療した重症58名の神経所見を調べています。

入院時にすでに神経所見のあったのは8名、鎮静剤を中止したときの興奮が40名にみられました。混乱したりアキレス腱などの腱反射が亢進したり、退院しても約3割の方に注意力散漫や場所が分からなくなる見当識障害、指示動作が上手くできない遂行障害がみられました。

MRI 所見では leptomeninges という頭蓋骨の内側に接する軟髄膜が造影剤で増強されること、脳血流の灌流異常がみられること、3名に虚血性脳梗塞が見られたことが報告されました。

 

中枢神経に影響を及ぼすウイルスの感染ルートとしては

①ウイルスが血液に乗って脳内へ入る血行性ルート

②ウイルスが神経をさかのぼって脳内に入る神経ルート、とくに鼻腔の上部にある嗅覚部位から神経を伝って脳内に入る可能性も指摘されています。

 

 

 

コロナウイルスと結膜炎に関して

コロナウイルスによる結膜炎について中国から症例報告がされています。

30歳男性でコロナウイルス感染症と診断され入院となりました。

発症してから13日目に両側に結膜炎(ウイルス感染によく見られる濾胞性結膜炎)を認めました。この症例では発症早期には結膜炎がみられていません。また結膜からのウイルス排出量は喀痰や咽頭よりも少なく、またより早期に消失しています。網膜や黄斑部には異常をきたしていませんでした。

従来のコロナウイルスであるNL63では18人中3人に結膜炎の報告があります( Vabret A, Mourez T, Dina J, et al. Human coronavirus NL63, France. Emerg Infect Dis. 2005;11(8):1225–1229)。頻度は多くないかもしれません。猫、ネズミ、ラクダにおいてコロナウイルスによる結膜炎がみられています。

今回の新型コロナウイルスが眼に及ぼす影響や発症率はこれから報告が出てくると思います。

また目はウイルスの侵入経路のひとつとしても注意が必要で、極力目を触らないことも重要です。

 

 

 

 

年齢別致死率と小児の報告について

2020年4月現在流行の第一波のピークを過ぎたと言われている中国本土から年齢別の致死率と小児の感染例の報告がありました。

それによると高齢者ほど致死率が高いこと、また武漢市の呼吸器感染症で入院した16歳以下の366人のうち検査してみると6人に新型コロナウイルス感染が認められたことが報告されました。うち1人の3歳女子の方は集中治療室でリバビリン(抗HIV薬)、タミフル(抗インフルエンザ薬)、ステロイド、酸素吸入、免疫を助けるグロブリン製剤の治療を経て13日後に退院しています。

子供は重症化しないということではないようです。

 

 

 

 

コロナウイルスと川崎病の関連について

欧米から小児の川崎病に似た症状の報告が相次ぎ、新型コロナウイルス感染症との関連が指摘されています。

川崎病とは主に4歳以下に発症する疾患で、発症すると高熱が約1週間弱続き、体幹を中心に紅斑がみられ、頸部のリンパ節が腫れ、目が充血します。BCG注射部位も赤く腫れます。回復期には炎症を起こした手足の皮膚が落屑していきます。

川崎病による冠動脈瘤について

発症して2週間前後に約4割に心臓の冠動脈瘤を認めますが多くは自然に消退します。

冠動脈瘤が残存して狭心症や心筋梗塞を起こさないかどうかが重要になってきますが、免疫を助けるガンマグロブリン製剤投与の治療を行うようになり進行例は約1割へ少なくなりました。その際の瘤の大きさが8㎜以上あると瘤が自然消退することなく残存して、狭心症や心筋梗塞へ進展するハイリスク要因と考えられています。

川崎病の原因

川崎病の原因に関しては詳細が分かっていません。

2014年に台湾から発表された論文ではコロナウイルスだけでなく、エンテロウイルス、ライノウイルス、アデノウイルスなどのウイルス感染の関与も指摘されています。

感染以外では遺伝子(第6染色体短腕に存在するHLAのある特定の遺伝子型)、ACE酵素(これは下記にも記載していますがコロナウイルスがかき乱すレニンアンギオテンシン系に関与する酵素)、自己免疫疾患(守るはずの自分の体を攻撃してしまうSLEループス疾患)なども原因として報告されています。

 

 

 

 

コロナウイルスによる心臓への影響について

新型コロナウイルス感染症の心臓への影響に関する報告が世界中からあがってきています。重症化のメカニズムや予後の決定に肺炎だけでなくその後に続く心臓への傷害が関与していることが分かってきていますので紹介します。

 

COVID-19 and the Heart

DOI: 10.1161/CIRCRESAHA.120.317055

 

 

発症早期にはリンパ球が下がり(ステージⅠ)、サイトカインストーム(高度の炎症)がおこり肺障害が起きる(ステージⅡ)ことが知られています。そして次第に心臓への影響が出てきます(ステージⅢ)。入院患者さんの2-3割に心臓への傷害がみられ、直接死因の4割近くにのぼるとのことです。

ここで米国にあるMayo Clinic のシェーマを借りて心臓の症状をみてみましょう。

 

 

心筋炎:ウイルスが心筋組織に感染して炎症を起こし心臓本来のポンプ機能を低下させます。心筋炎は起こしたばかりの急性心筋炎とある程度治ってからの慢性心筋炎があり、特に後者は心不全のコントロールや致死性不整脈など長期にわたって気を付けなければいけない病態になってきます。

 

急性冠症候群:一般的な心筋梗塞は動脈硬化がベースにあって心臓の冠動脈のプラークが破れて血栓閉塞をきたす病気です。今回のコロナウイルス感染では感染に伴い血液が固まりやすくなり(凝固能亢進)、動脈硬化に関係なく血栓が冠動脈につまる報告があります。血栓は大きなものから微小なものもあり、詰まった先の心筋は壊死を起こして心機能の低下や不整脈のもとになりうります。

 

QT延長:治療にあたりクロロキンやマクロライド系抗生剤は心電図上のQT延長をきたすことが知られています。感染による不安定な循環動態においてはQT 時間が延長していると心室細動(⑥)などの危険な致死性不整脈が出現しやすくなります。

 

心不全:上記の心筋炎や心筋梗塞により心臓が本来果たしている各臓器との血液のやりとり(動脈で送り静脈から返ってくる)ができなくなる心不全が起こりうります。心不全の症状にはむくみ、息切れ、倦怠感、咳嗽などがあります。

 

心源性ショック:心臓の働きが低下して急に血圧が下がり循環が保てない状態になります。緊急の治療を要します。またウイルスによる炎症が高度になると手足などの末梢血管の抵抗がさがり心臓が頑張って酸素を組織に運びますがその状態が長引くと次第に末梢血管抵抗が上がってきて心臓も拍出できなくなる敗血症ショックという病態もあります。

 

 

肺血栓塞栓症も重篤な病態です。この病気は動脈ではなく静脈に血栓ができることで起こります。この感染にかかると血液が固まりやすくなり、手足の静脈(主に下肢深部静脈)に血栓ができやすくなります。その血栓が肺動脈に飛んでいき肺にダメージを与えます。急速に呼吸不全が進むことがあります。

Autopsy Findings and Venous Thromboembolism in Patients With COVID-19

DOI: 10.7326/M20-2003

 

この論文(上図左下)によるとコロナウイルス感染で亡くなられた方の解剖をしたところ12 名中 7名に静脈血栓が見られました。そのうち4名の方が静脈血栓が直接の死因だったとのことです。この病気がもたらす凝固亢進による血栓促進の病態はこれからのコロナウイルス治療の大きなターゲットになると思います。

 

心膜炎:心臓を包む心膜に炎症を起こし水が溜まったり、硬くなったりして心臓のポンプ機能(特に拡張機能)に影響を与えることがあります。

 

心源性脳梗塞:もともと心房細動がある方や血行動態の変化にともなって新規に心房細動が起こった際は心房が不規則にふるえるように動き、血液の流れのよどみができるために心房内(特に左心耳)に血栓ができやすくなります。その血栓が脳にとんで脳梗塞をおこす病態です。

 

 

 

新型コロナウイルス感染症が腎臓に及ぼす影響、急性腎障害 (AKI) について

コロナウイルス感染による腎臓への影響についてみていきましょう。

 

コロナウイルスにかかると腎臓に障害が出てくることが知られています。時に生命を脅かすこともあり、そのひとつが急性腎障害 (Acute Kidney Injury : AKI )です。蛋白尿が出たり、尿が出なくなるなど急速に腎機能が低下する病態です。つまり体内の不要物を尿から捨てられなくなり体内に不要物が蓄積してしまうのです。

 

急性腎障害の定義

① 48時間以内に血清クレアチニンが 0.3mg/dl以上上昇すること

② 元々の血清クレアチニン値から1.5倍以上上昇すること

③ 体重60㎏の人が1時間あたりの尿量30ml 以下が6時間以上続くこと

のいずれか一つがあてはまると診断されます。

血清クレアチニンといえば特定健康診断などでeGFR(推算糸球体濾過量)とともに採血項目で良く知られています。

急性腎障害はコロナウイルス感染重症者の5-23%にみられており、典型的な急性腎障害は発症してから2週間の間に起こってきます。

重症化する背景に慢性腎臓病(CKD)の存在が関連していると言われています。

 

 

腎臓の役割

腎臓は左右両方にあり、心臓が出す血液の20-25%が腎臓に送られてきます。その血液には腎臓が働いていく上での大切な酸素が含まれています。また腎臓の大切な役割の一つとして不要になった物質を血液から濾過して尿として捨てることです。その濾過する場所が糸球体です(上図)。糸球体から濾過された原尿は尿細管に流れていきます。体内の水分や電解質が一定になるように原尿は尿細管で再吸収されていきます。再吸収されなかったものが最終的に尿として排出されていきます。

ちなみに糸球体と尿細管の組み合わせがネフロンと言われ、各腎臓に約100万個存在しています。

 

 

コロナウイルスによる急性腎障害のメカニズム

 

ウイルス自体が糸球体、尿細管にダメージを起こすことが知られています。コロナウイルスが最初に細胞に侵入する受容体であるACE2 (アンギオテンシン変換酵素2) が腎臓の糸球体と尿細管の上皮細胞にあり、ウイルスが局在していることが電子顕微鏡で確認されています。ウイルスそのものが糸球体と尿細管を壊して急性尿細管壊死を起こし急性腎障害を来たす可能性が言われています。

 

② 細胞や細胞の周囲がダメージを受けるとその放出された成分(damage-associated molecular patterns: DAMPS)から免疫応答が起こってきます。そして炎症反応や血栓が形成されていきます。糸球体内に血栓が多発すると糸球体やその周辺が壊死して腎障害を来たす可能性があります。

 

心腎連関:心臓と腎臓は密接な関わり合いを持っています。心臓が弱ると腎臓に影響し、また腎臓が弱ると心臓に影響することが知られており心腎連関と言われています。

腎虚血(心臓から送られる方):別項のコロナウイルスによる心臓への影響で触れましたように今回のコロナウイルス感染では急性心筋炎や急性冠症候群などの心臓の病気が発症し心臓の働きを弱めます。心臓のポンプ機能が低下すると酸素が多く含まれた血液が腎臓に来なくなります。そのために腎臓の細胞が虚血におちいり腎機能が低下していきます。

腎うっ血(心臓に戻る方):また心臓が弱ると各臓器から心臓に血液が戻ってこられなくなり、静脈に血液が溜まっていきます。いわゆるむくみやうっ血のことです。すると静脈の圧が高まり腎臓からの血液も心臓に返ってこられなくなり腎臓に血液がたまって腎機能低下を来たします。

 

敗血症性ショック:感染が長引くと点滴をしても血圧低下した状態が持続し、血液中の乳酸が多くなり酸性化してきます。収縮期血圧が90mmHg未満もしくは通常の血圧より40mmHg以上の低下で診断されます。血圧が低下すると腎臓への血液が少なくなり尿が出なくなり腎臓が弱っていきます。

 

脱水:発熱、下痢、食欲低下により体液量が少なくなります。すると腎臓への血液量も減ります。

 

横紋融解症:骨格筋の破壊により筋由来のミオグロビンやCPK(クレアチニンホスホキナーゼ)が血中へ流出して、尿細管を閉塞して腎機能が低下する病態です。

横紋筋融解症は交通外傷や打撲などによる外傷性と感染などによる非外傷性に分かれます。

感染による横紋筋融解症にはインフルエンザウイルス、HIVウイルス、ヘルペスウイルス、エンテロウイルスなどが知られていますが今回のコロナウイルス感染においても約 1割にみられています。

症状は筋肉痛や筋力低下です。ウイルス自体が筋肉に浸潤する、サイトカインが筋肉を損傷させる機序が想定されています。通常血液中のCPKは230U/Lを超えませんが、13,500 U/L 上昇する例も報告されています。

大量のミオグロビンが腎臓に流入すると糸球体が処理できなくなり酸性尿と相まって結晶が尿細管を閉塞し傷害されていきます。白血球の一部であるマクロファージも関与しているという報告やミオグロビン自体が血管を収縮させて腎組織が虚血におちいるという報告もあります。

コロナウイルスによる急性腎障害に関する新しい機序や詳細がこれから分かってくるかもしれません。また重要な論文がありましたら紹介させてください。

 

 

 

新型コロナウイルス感染関連湿疹の報告

コロナウイルスに感染したときに湿疹が出現することも報告されています。

下記の2報告からはパルボB19 ウイルスにみられるような一般的なウイルス性湿疹 papulosquamous eruptionであり、血管炎やDIC(播種性血管内凝固症候群)にみられる血栓やアレルギーなどは顕微鏡像にて見られなかったとのことです。

頻度は中国からの報告で0.2% からイタリアからの報告で20%と様々です。

 

 

 

 

新型コロナウイルス感染の伝播様式について

飛沫感染:くしゃみや咳によってその飛沫についたウイルスが10メートル弱飛んでいくことがあります。感染を拡大させないためにも咳やくしゃみをする際はマスクを着用するか、ない場合はハンカチや衣服等でおさえて飛沫が飛ばないようにしてください。

 

接触感染:ウイルスを排出している人から2メートル圏内はうつる可能性が言われています。飛行機でも通路を介さない前後2列は感染することが報告されています。物からの感染 (fomite infection)に関しては新型コロナウイルスは

銅の表面で4時間、段ボールで24時間、ステンレスで48時間、プラスティックで72時間生存していると報告されています(下表の下グラフ)。

 

空気感染:このウイルスが長時間空気中に浮遊している状態は今のところないと言われていますが、かなり小さな飛沫(エアロゾール)の状態で空中に最大3時間漂っているとの報告があります。粒子が細かいだけに鼻腔やのどにとどまらず気管支や肺のほうに到達する可能性があります。人との距離を2メートル以上保ち、多人数での密室を避け、できるだけ換気を行う重要性が言われています。

 

super-spreaders という周囲にウイルスを拡散する罹患した方々がいることも報告されています。それは症状のある方や驚くことに症状がなくてもウイルスを鼻汁、尿、便、血液から排出していることが報告されています。

空気の流れの悪い密室空間ではクラスターの形成が起こりうります。SARSの事例では感染後2ヶ月にわたってウイルスの排出がみられたとの報告があります。発熱や咳嗽の症状がおさまっても他の方へウイルスをうつさないことが次の感染拡大を防ぐことにつながります。

 

 

 

 

 

エアコンの対流に乗った微小飛沫がレストラン内感染を拡大させたと考えられる中国からの報告

これから社会活動を再開させていくにあたり特に室内での感染対策は大切になります。その中でレストランにおける空調による空気の流れも注目されています。

次に紹介するのは2020年1月23日に中国のレストランで起こった感染報告です。

 

COVID-19 outbreak associated with air conditioning in restaurant, Guangzhou, China, 2020. Emerg Infect Dis.

DOI: https://doi.org/10.3201/eid2607.200764

 

 

武漢市から広州市に来た旅行者が1月23日レストランで食事をとりました。Aテーブル1番の人は当時症状はなく、食事をしたその日の夜に発熱、咳嗽を来たして新型コロナウイルス感染症と診断されました。つまり食事中は発症する前の無症候性病原体保有者(presymptomatic)だったわけです。

その後向かいに座っていた A2番の人が 3日後の 1月 27日に感染して、以降同じ Aテーブルで食事を囲んだ人たち、隣のBテーブルで食事をしていた人たち、A1番の背中にあたるCテーブルにいた人たちまでにも感染していきます。

飛沫感染だけでは説明ができない空調の流れに微小飛沫が乗って対流する中で感染していった可能性を報告しています。

 

 

 

バス内感染の報告

公共の交通機関に乗る際も気になります。バス内で感染が広がったと考えられる2つの報告を紹介します。

 

1つ目は中国浙江省からの報告です。

Airborne transmission of COVID-19: epidemiologic evidence from two outbreak investigations  DOI: 10.13140/RG.2.2.36685.38881

 

宗教行事に向かう往復100分のバスの中で 64歳女性の初感染者から感染が広がった様子がバスシートで表示されています。バスは空調循環がついていたとのことです。

下図上を見るとバス内の感染は初感染者の近くに座っていた人だけに集中していないことが分かります。前方から最後尾まで。また最もウイルスの被爆が多かったであろう右隣の人は感染していません。

通気孔のある窓(緑色)に近い方に座っていた乗客の感染は少ないことが分かります。やはり換気が大切なことが示唆されます。

 

 

2つ目の論文は中国湖南省からの報告です。

 

An epidemiological investigation of 2019 novel coronavirus diseases through aerosol-borne transmission by public transport.

 

この論文は雑誌 Practical Preventive Medicine に2020年3月5日発表されましたが、わずか5日後の3月10日に論文の修正ではなく撤回となりました。世界的に感染が拡大していく中で感染経路として空気感染があるのではないかと話題になり始めた時期でした。撤回された理由は公表されていません。

もし感染者の把握が事実だったと仮定して上図下にあるようにバス内での感染が見た目で分かりやすい報告です。

初感染者の後方に座っていた人、4.5メートル離れて座っていた人が感染し、さらには感染者が下車した30分後に乗ってきた人までもが感染していたことが報告され、飛沫感染だけでなく物質感染、空気感染も起こりうる可能性が指摘され、どれだけこれから感染が広がるのだろうかという当時の不安をさらにあおるようにニュースとなりました。

この報告でも一つ目の論文と同じように隣に座ったからといって感染するわけではないようです。

 

 

 

飛行機内の空気循環の仕組み

密室から逃れられない状況の一つに一度搭乗して離陸したらすぐに降りられない飛行機があります。

感染者が咳やくしゃみをすることによる飛沫感染はマスクやボードによるシールドが検討されています。いっそう狭く窮屈にならない設計が望まれます。

 

また空気感染に対する対策はどうでしょうか?

実は飛行機キャビン内は外からのきれいな空気を取り入れながら、ウイルスを含む内部の汚れを床下にあるフィルターで捕集しきれいな空気を循環させています。

 

 

 

まずキャビン内には天井のエアコンダクトから空気が入ってきて、そして両側の床下にある空気孔へ流れていきます(右上図)。

キャビン内の空気は滞留することなく約3分間で入れ替わります。空気が流れていることが重要です。

床下へ流れてきた空気は一部機外へ排出され、残った空気はHEPAフィルターを通して浄化されます。

HEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter) は0.3μm の粒子を99.7%捕集し、6000時間の運航に耐えられます。機内のホコリや空気の汚れをきれいにする高い空気清浄能を持つ高性能フィルターです。そういえば機内であまり埃っぽいと感じたことがないのはこの空気循環システムのおかげかもしれません。

フィルターを通過したきれいな空気は機外の空気を取り入れながら再びエアコンダクトに入りキャビン内に入っていきます。

ということで機内では空気感染が起こりにくいように工夫がしてあります。

 

 

 

ソウルビジネス街にあるオフィスビル内でのクラスター報告

2020年2月から3月にかけて韓国ソウル市内のオフィスビル内で新型コロナウイルス感染のクラスターが発生しました。

ビルの勤務者、住人、感染者の家族のPCR検査を行い結果を報告しています。

 

Coronavirus Outbreak in Call Center, South Korea

https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/26/8/20-1274_article

 

 

この報告の驚く点は感染者が11階フロアのコールセンターに集中しているということです。

密な空間の中で声を出すことがいかにウイルスを拡散させるかあらためて思い知らされます。その割合は216名の勤務者中94名が感染しておりattack rate (罹患率) は 43.5%に及びます。

上図の11階フロアの見取り図から見ると上の区画に関してはもっと罹患率が高いと考えられます。

家族への2次感染は225名中34名、罹患率16.5%です。感染報告やビル閉鎖などのテキストメールがまわってきて各家庭で用心していたのにも関わらず高い罹患率です。

 

 

 

ウイルスはどこにいるのか?

飛沫感染ルートと同様に物質表面から感染するルート (fomite infection) も重要と考えられています。

 

Detection of Air and Surface Contamination by Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2) in Hospital Rooms of Infected Patients

doi: https://doi.org/10.1101/2020.03.29.20046557 

 

この論文では感染した患者さんの病室のウイルスを調べています

床、ベッドの横板、ロッカーの取っ手、ベッドサイドテーブル、リモコン、椅子、トイレの便座と取っ手、換気扇など多くの個所に検出されています。やはり人の手で触れるところが目立ちます。

軽視できないのは床、すなわち靴底にウイルスをつけて運んでしまうことです。

また換気扇にもみられることから今後空調設備に伴う感染がないかどうかも大切になってくると思います。

最初の1週間は多くウイルスが検出されています。2週以降はウイルスが少なくなっています。しかしながらこの少ないウイルス量でどれほどの感染力を持っているのかについては今後はっきりと解明したい点です。ノロウイルスのように少量のウイルスで感染させる力があるかどうかも大切です。

 

 

またこのコロナウイルスが物質上でどのくらい存在するかということに関して、物からの感染 (fomite infection)は

銅の表面で 4時間、

段ボールで 24時間、

ステンレスで 48時間、

プラスティックで 72時間生存していると報告されています。

微小飛沫感染は室内で 3時間存在していることが分かっています。

 

 

 

無症候性病原体保有者からの感染の報告

2020年4月に米国の亜急性期施設から無症候性病原体保有者からの感染に関する論文報告がありました。

 

Presymptomatic SARS-CoV-2 Infections and Transmission in a Skilled Nursing Facility

DOI: 10.1056/NEJMoa2008457

 

この施設では 89名が入所しており、一人のコロナウイルス感染が起きたため一斉にPCR検査と症状確認を行いました。するとPCR検査陽性でその時点でまだ症状が出てなかったかたが24名おり(うち17名がのちに症状が出ることになるわけですが)、症状が出る前の時期からにすでにウイルスを排出していたことがわかりました。

また時期を見ると発症の1週間前からすでにウイルスを排出していた人がいたこともわかりました。

不顕性感染者(感染しているけど結局発症しなかった方)からもウイルスの排出が認められました。

この施設内では57名にコロナウイルス感染が起こり平均 3.4日で感染者数が倍増し(市中は 5.5日)、うち 15名がお亡くなりになりました。

発症する前の時期に他者にうつすことで拡大が急速に広がった施設内感染を報告しています。

 

 

 

 

 

新型コロナウイルス感染症におけるウイルス排出期間と排出部位

前項でこのコロナウイルスは発症する 1週間前からウイルスを排出している人もいることに触れました。

ウイルスの排出がいつまで続くのか?

そして

体のどの部位からウイルスは排出されていくのか?

この問題も重要でありその手掛かりとなる論文をみていきましょう。

 

Evaluation of SARS-CoV-2 RNA Shedding in Clinical Specimens and Clinical Characteristics of 10 Patients With COVID-19 in Macau

DOI: 10.7150/ijbs.45357

 

マカオの病院で新型コロナウイルス感染症にかかった10名の患者さんに対して上咽頭、尿、便からPCR検査をこまめにしています。その10名の方々はみなさん人工呼吸器を必要としない状態でした。

この論文のデータからウイルスが排出される場所と時期を個別に詳細に見てみましょう。

下図上の2番目の患者さん (Patient 2) をみてみると発症から24日後においても上咽頭から陽性です。その間に上咽頭と便は一旦陰性となりますが、再び陽性となっています。これは体からウイルスが一旦消えてまた出現したというよりも、ウイルスが少なくなっていく中での検査感度の問題、手技的な問題が関係していると考えられます。

下図中の4番目の患者さん(Patient 4) では上咽頭が11日目に陰性化しています。その後も上咽頭からはずっと陰性が続いていますが14日目から便が陽性になってきています。つまり上咽頭から排出がなくなっても便から排出が続く可能性があります。

下図下の5番目の患者さん (Patient 5) は最初に喀痰のPCR検査が陽性で診断されました。発症してから5日目に便から最初に陽性が出ています。上咽頭から最初に検出されたのは9日目です。便から先に陽性となるパターンです。

10人とも尿からは陰性でした。

 

 

まとめますと

PCR 法を利用した新型コロナウイルスの検出と消失確認に関して

上咽頭から先に陽性になるパターン、便から先に陽性になるパターンがある。

・消失も同様に上咽頭から消失するパターンと便から消失するパターンがある。つまり上咽頭が消失しても便からウイルスを排出し続けていることもあることに注意を要する。

・尿での PCR法による診断は適さない

・消失していく時期においては感度や手技上の問題で一旦陰性化しても再び陽性になることがあり、一回の陰性結果だけでは断定できないことがあり注意を要する。

 

かかった方がウイルスをいつまで排出するのか正確に把握するためには上記の様々なパターンを考慮して上咽頭と便の両方からみていかないといけないのかもしれません。

 

今後解明したい点として

・便から感染が拡大する例がどのくらいあるのか? 

・感染者の排便後にトイレ室内での空気感染が起こりうるか?

もし便から感染が拡大していくことがあれば集団生活において手を洗うだけでなく、トイレ周りやドアノブなどの除菌や換気も大切になってきます。

 

 

次の論文はミャンマーと接する中国江西省 Xiangtan からの報告ですが、体のどの部位からウイルスが排出され続けるのかを重症者と非重症者とでみたものです。

 

Comparisons of Viral Shedding Time of SARS-CoV-2 of Different Samples in ICU and non-ICU Patients

DOI: 10.1016/j.jinf.2020.03.013

 

 

一般病棟8名、集中治療室24名から鼻腔、血液、唾液の部位別にウイルスの排出期間をみています。

集中治療室での治療ということですから一般病棟のかたより重症と考えていいでしょう。ウイルス排出期間は集中治療室群の方が一般病棟群より長く、とくに鼻腔からは平均 22.25±3.62日排出され続けており、一般病棟群 (15.67±6.68) より有意に長く排出されていました。

両群ともまず血液から消失して、次に唾液、最後まで検出されたのは咽頭です。

この試験では便を用いた PCR検査は施行していません。

 

 

令和2年5月17日 

タカラバイオ株式会社より唾液を用いたPCR検査試薬発売の報道がありました。上記の論文からも唾液からのウイルス排出期間は鼻腔に次いで長く非重症者で13.33±5.27日、重症者で16.50±6.19日です。
何よりも唾液検査のメリットは自分自身でできること、そして鼻腔からの検査のように検査時にくしゃみや咳がでないことにより検査者を感染リスクにさらさないことです。

 

 

 

新型コロナウイルス感染症の診断方法

現状では鼻腔や咽頭をぬぐった体液からPCR法というウイルスの遺伝子を増幅させて調べる検査方法がとられています。

但しぬぐった体液にウイルスが付着していなかったり、感染の初期にはまだウイルスが十分に出てこなかったりする感度の問題があります。

また検査時間、一度にできる検査数、検査費用も足かせとなり令和2年4月現在日本では積極的に検査をしない方向できました。

軽症者は自宅で養生するという方針が市中への感染拡大を防いでいたという側面を指摘する意見もあります。

検査方法に関してはPCR法より複雑な工程を経ないLAMP法を用いた検査やイムノクロマト法、ELISA法など、正確で短時間にわかり、かつ多くの方が検査ができるよういろいろな企業や大学で開発が進められています。

 

 

ニュース 令和2年5月9日

みらかホールディング株式会社が作製した15分でコロナウイルス抗原を検出できる簡易キットが5月中旬に承認される見通しとの報道がありました。国内で週20万検査分を生産するとのことです。

この迅速キットの普及によりコロナウイルス診療が医療機関と保健所の不要なやり取りを省くことになり、よりオープンな形で ① 症状のある方の診断や ② 自分や周囲の方も知らずにウイルスを排出している無症候性病原体保有者の診断を簡便にかつ迅速に行えるようになってくることが期待されます。

 

 

新型コロナウイルスに対するIgMとIgG抗体を血液から迅速に診断できるキットが各社から発売されてきました。ここでまずIgGやIgMという免疫グロブリンのことについて触れます。

ウイルスや細菌が体内に入ってきたときに戦うための中心的な働きをするのが免疫グロブリン(immunoglobulin) という蛋白です。

免疫グロブリンにはIgG, IgM, IgA,IgE, IgD の5種類があります。その中でウイルスや細菌に感染したときにまず作られるのがIgMです。IgMは5量体といって5つの足のようなサブユニットを持って外敵に幅広く対応できる特徴的な形をしています。

このIgMを調べることで現在感染しているかどうかを知る事ができます。その後にIgGが作られ(IgMからのクラススイッチ)免疫の中心的な役割を果たします。IgGは免疫グロブリンの中で約8割をしめる抗体で長期間免疫に関与します。再感染をおこさないことにも寄与しています。分子量が小さく胎盤を通過し生後の赤ちゃんを守る働きもあります。

これらの免疫グロブリンは侵入したウイルスや細菌を中和させたり溶解したり、攻撃したりして我々の体を外敵から守っています。

話が長くなりましたが新型コロナウイルス感染症の場合は免疫ができたという目安のIgGがどの期間持続するのか? IgGを獲得したことで変異をともなったコロナウイルスの再感染を防げるのか?などまだ不明な点が多いです。

免疫パスポートが話題になりましたが、有効なワクチンもまだできていないことからまだ先のことになりそうです。

 

 

 

 

新型コロナウイルスの迅速抗体検査はキット製造メーカーによる性能差やばらつきがあり正確性(特にIgMの感度、偽陰性)の問題が指摘されていますが、PCR法の欠点である高価、診断にかかる時間、鼻腔からのウイルス発現量の個人差の問題を補うことができる検査方法として期待されています。

新型コロナウイルスは発症する前からウイルスを排出していることからまず反応するのはPCR法です。発症後数日してからIgMが陽性となり、続きIgGが陽性となります。IgMは2-3週間前後で陰性化します。キットの検出性能により多少日にちが前後します。

感染を今起こしているかどうか、他人に感染させるリスクがあるかどうかという観点からIgM抗体の検出は精度の問題が克服されれば PCR法と並んで有効な検査になってきます。

 

下記にコロナウイルス感染症のPCR法とIgMおよびIgG抗体の推移を示します。

 

 

 

 

Wastewater-based Epidemiology (WBE)下水疫学調査を用いた地域感染状況のモニタリング

下水中に存在するコロナウイルスがどの程度経口感染するのか、または空気感染するのかははっきりと分かっていません。

2003年香港の民間集合住宅 Amoy Gardenの棟内でSARSによる200人近くのクラスターが発生しました。原因として下水管の不備によりウイルスを含んだ下水が滞留して空気感染を起こした可能性が指摘されています。

下水中でのウイルスの生存期間は23℃の環境下において従来のコロナウイルス229E では2-4日と報告されています。4℃の環境下では活性が20日以上も保たれています。

冬の時期の下水の温度が気になりますが、東京下水道エネルギー株式会社の報告によると外気温が5℃であっても下水温度は16℃とのことです。

 

今回の新型コロナウイルス感染においても便からのウイルス排出が報告されており、下水を調べることで地域の流行を早期に把握する取り組みが始まっています。従来の感染者数報告でなく、下水を通しての地域感染状況が加わることになります。

 

 

この新型コロナウイルス感染症では症状が出る前からウイルスを排出している、また症状が出ない感染者もウイルスを排出していることが分かっており、そういう方々が感染を急速に拡大させる要因になっています。しかしながら症状が全くでない場合は今のところ検査をする機会も少ないと予測されるため、下水を用いたウイルスの検出方法が加わることでより正確な地域の流行状況が得られる可能性があります。

 

中国ではLAMP法を用いておよそ51分でウイルスの検出ができるセンサーが開発されています(上図左下)。このようなセンサーを各下水のポイントに設置するとウイルスの検出ができるようになります。設置するポイントが多いほどより細かいコミュニティの感染が把握できるようなるという仕組みです。

もしこの感知センサーを高精度で安価で大量に作ることができれば、各家庭のお手洗いに設置することもでき、モノとモノとがつながるインターネットの時代においては陽性が検知された際はご自身のスマートホンにその情報が飛んでくることも可能です。敷地外の下水は自治体が、敷地内はご自身で管理するようになるかもしれません。

 

但し鹿児島県では主に市外部で下水道システムを介さない単独処理浄化槽やくみ取り槽を用いている家庭もあり、ウイルスの河川への放出リスクや下水を通した正確な感染把握ができない状況も想定されます。

 

 

 

デジタル疫学の手法を用いたコロナウイルス感染初動を探る試み 武漢市の病院駐車場人工衛星写真と  Baidu 社 サーチエンジンを用いて

いかに早く第2波をとらえて感染拡大を防いでいくかが重要です。

前項で下水中のウイルスの断片から新型コロナウイルスを検出して地域アラートシステムを構築できる可能性に触れました。

次に紹介するのはデジタル疫学という新しい手法を用いてコロナウイルスの初動を把握する試みです。

 

Analysis of hospital traffic and search engine data in Wuhan China indicates early disease activity in the Fall of 2019

 

 

武漢市でコロナウイルスが確認されたのは2019年12月1日のことでしたが、その時期にはすでに流行が拡大していたのではないかとも言われています。

この論文では武漢市内の6 つの主要病院に来る自動車の数を人工衛星写真から計算し、また下痢症状の数を中国最大の検索エンジン会社であるBaidu (百度)社の検索数から求めています。

これらを総合するとこの疾患の流行は 報道されるかなり前の 8月から始まっていた可能性を伝えています。

 

科学技術が発達して人工衛星からの写真もきれいに見られるようになりました。病院が公表するソース以外にも主要病院に出入りする自動車の数を人工衛星写真から知ることができるようになりました。

皆さんが何かを知りたい時や気になった言葉を Google やヤフーなどで検索すると思いますが、病気に関して調べたキーワードの検索の総和や時期などのデータが疫学として用いられるデジタル疫学 ( digital epidemiology ) の将来性がこの論文から感じられます。

 

 

 

新型コロナウイルスにかかったらいつまで感染力が持続するのか? PCR法とのギャップ

新型コロナウイルスに感染した時にいつまで他人にうつす感染力があるのかみていきましょう。

 

コロナウイルスに感染すると体からウイルスの排出がみられます。気管、上咽頭、鼻腔、便などからです。PCR法 (Polymerase Chain Reaction) で検査すると排出期間は発症から約 2か月に及ぶことがあります。ただしPCR法は遺伝子を転写、増幅させた産物をみているだけで感染性をみているものではないという意見があります。

 

 

感染後に2か月間排出物からPCR陽性が検出されて、もし感染性が発症から1週間後までしかなかったとしたら、2か月間の隔離は不要なものとなり、PCR 検査陰性を2回確認してから社会復帰するという手間も必要なくなります。

 

新型コロナウイルス感染後の感染性について示唆する2つの論文を紹介します。

一つ目は初感染者と接した濃厚接触者を丁寧に検査した台湾からの報告です。

 

Contact Tracing Assessment of COVID-19 Transmission Dynamics in Taiwan and Risk at Different Exposure Periods Before and After Symptom Onset

DOI: 10.1001/jamainternmed.2020.2020 

 

 

感染者と濃厚に接触した2761名を調べたところ 22名が陽性でした。その22名は全員初感染者 ( index case ) が発症してから5日以内に接触していました。発症して6日目以降に接触した人たちは全員うつらなかったのです。

つまりPCR法で2か月近く検出されているウイルスは実は発症から6日以上経てば他人にうつす感染性はなくなるのではないかということを示しています。

 

次の論文は新型コロナウイルスに感染した 90 例に対してウイルス培養とPCR法によるCt 値を測定しています。そして合わせて発症日からの日数を記録しています。

 

Predicting infectious SARS-CoV-2 from diagnostic samples

DOI: 10.1093/cid/ciaa638

 

 

この論文では新型コロナウイルス感染 90例中 26例がウイルス培養が陽性になりました。この培養陽性例はすべて発症から7日以内に検査したものでした。つまり発症から8日以降にウイルスを培養しても陽性にはならなかったのです。

 

上記の2つの論文からこの新型コロナウイルスが人にうつす感染性を持つのは発症から1週間前後ではないかということが推測されます。ただ限られた数の検査例ですので早急な判断をすることなくこれからのさらなる解明を待ちたいところです。

 

2つ目の論文では PCR 法によるCt 値を計測しています。

Ct 値とは何かを理解するためにここで簡単にコロナウイルスのPCR検査の行程とその解釈について触れてみます。

 

 

上図にありますようにまず鼻腔を通り抜けた上咽頭や唾液などから検体を採取します。

コロナウイルスは1本鎖のRNAという遺伝子情報を持ったウイルスで、ウイルスの中にあるRNAを抽出します。

そして PCR検査で増幅できるように一本鎖RNAを 2本鎖DNAに変換します。

あとはこの変換した DNAを PCRの機械にかけて増幅させていきます。1対が2対に、そして2対が4対にという具合にDNAが増えていきます。

ウイルス量が多ければ短いサイクルで閾値(基準ライン)を超えてきます。このサイクルの数をCt 値 ( Cycle threshold values ) と言います。おおまかに Ct値が低いとウイルス量が多いと推定できます。ウイルスがなければ40サイクルを繰り返してもラインを越えてきません。Ct 値が40を超えると陰性としています。

 

2つ目の論文ではウイルス培養陽性例はすべてCt 値が24未満であったことを報告しています。つまり培養陽性例ではウイルス量が多いことが推測されます。

 

感染力が発症からいつまで続くかに関して、もしかしたら我々が想像していた以上に短いのかもしれません。これからのさらなる知見の集積が真実を明らかにしていくと思います。

 

 

 

ロナウイルスの重症化と血液型について

どうしてO型はA型より重症になりにくいのかという問いに対する考察

 

コロナウイルスにかかると多くの方が無症候性もしくは軽症で経過します。しかし世界でこの感染でお亡くなりになる方が50万人を超えてきた現状を考慮するとどうして重症化するかについて解明していくことがとても重要に思われます。

2020年6月に重症化する原因を遺伝子から解析した研究が報告されました。​

Genomewide Association Study of Severe Covid-19 with Respiratory Failure​

DOI: 10.1056/NEJMoa2020283

 

この論文に出てくるゲノムワイド相関研究  (GWAS) と遺伝子座 (locus) をより理解するために我々の染色体、DNA、遺伝子についてみていきましょう。

人の染色体は両親から受け継いだ23対計46本が細胞の核内にあります(下図右上)。このうち 1 対は性別を決める性染色体です。女性の場合は X染色体が2本、男性の場合は X染色体と Y染色体が1本ずつです。DNAの情報は染色体の中に織り込まれるように格納されています(下図左)。DNA はアデニンA、グアニンG、チミンT、シトシンC )の4 塩基と5 炭糖とリン酸から構成され、二重らせん構造をしています。​

 

 

DNA は意味のある部分と意味を持たないただ羅列しているだけの部分があり、意味のある部分を遺伝子と呼んでいます。

疾患の原因となる遺伝子が染色体のどこにあるかを示しているのが遺伝子座  (locus) です。何番目の染色体にあって、短腕 p もしくは長腕 q の部分なのかそしてその後に続く番号は住所の番地のように記載されます(上図右下)。

ゲノムワイド相関研究とは病気と遺伝子の相関をみたものです。​正常者と比べて遺伝子の塩基配列 A、G、T、C の組み合わせがどう異なっているかという一塩基多型(SNP : Single Nucleotide Polymorphism)から解析したものです。

この論文では呼吸不全を来たした新型コロナウイルス感染症すなわち重症例 1980名と健常者 2205名の遺伝子と比較しています。

結果は2 つの遺伝子座が重症化群に見られました。

第 3 染色体にある 3p21.31 と第 9 染色体にある 9q34.2 です。

前者の遺伝子座 3p21.31 には直腸がん、クローン病、神経膠腫、肺小細胞がん、上咽頭がんなどの遺伝子があることが知られています。この研究では 3p21.31 遺伝子座にある SLC6A20 や LZTFL1 などの遺伝子が新型コロナウイルス感染症の重症化に関連していることが分かりました。SCL6A20 はコロナウイルスの侵入経路である ACE2 の発現に関与しています。また LZTFL1  は肺がん抑制に関与しており今後さらなる重症化のメカニズムが明らかにされていくと思います。

一方後者の遺伝子座 9q34.2 は液型の決定に関与する遺伝子がある遺伝子座です。この論文では重症化するリスクはA型が他の血液型と比べ最も高く1.45倍で、O 型が最も低く0.65倍という結果でした。​

血液型の遺伝子がコロナウイルス 感染症の重症化に関与していることは少し驚きです。

そこでさらにこの感染症と血液型の関連について掘り下げてみていきましょう。

 

血液型について

血液型はみなさんもご存知のように A, B, AB, O 型があります。1900年にオーストリア人の生物学者ランドシュタイナー(Karl Landsteiner ) が人の血液に他人の血液を混ぜると凝集する場合と凝集しない場合があることに気づき血液には合わない型と合う型があることを発見しました。この発見が血液型の歴史の出発点になっています。

 

我々の血液には赤血球の表面に抗原という標識を持っています。抗原にはたくさんの種類がありよく知られているものに ABO 抗原があります。ABO 抗原の違いは細かくみると赤血球表面に存在する蛋白質に結合する糖鎖(グルコースなどの糖が鎖状に連なったもの)の種類の違いです。

そして流れている血液の血漿には抗体を持っています。

異なる型の血液を混ぜると抗原抗体反応が起こる場合があります。抗 A 抗体が A 抗原を攻撃し、抗 B 抗体がB 抗原を攻撃します。

例えばA 型は赤血球の表面にA抗原という血液型物質があり、血漿には抗B 抗体をもっています(上図参照ください)。

もし仮にこのA 型の血液の人にB 型の血液を輸血するとします。A 型の人は血漿中にB 抗体をもっていますのでB 抗原を持っている B 型の人の血液が入ってくると B 抗体が B 抗原を攻撃して凝集してしまいます。​

 

感染によるARDSはA型に重症化が起こりやすくO型、B型は起こりにくい

ARDS : Acute Respiratory Distress Syndrome (急性呼吸窮迫症候群)という病気は感染後や外傷後に急速に呼吸状態が悪化する緊急を要する疾患です。このコロナウイルス感染症を重症化させる病態の一つです。​

ARDSの発症と血液型の関係をみた論文がありますので紹介します(左下)。

ABO Blood Type A Is Associated With Increased Risk of ARDS in Whites Following Both Major Trauma and Severe Sepsis

DOI: 10.1378/chest.13-1962

​​

この論文では敗血症(感染)由来のARDS を白人と黒人とに分けて調べています。

結果は白人、黒人ともにA型の人がARDSになりやすく、O型、B型はARDSになりにくいという結果です。​

 

ARDSの死亡群では凝固に関与する von Willebrand 因子が多い

右上の論文はARDSにかかって死亡した群と生存した群を比較しています。

Significance of Von Willebrand Factor in Septic and Nonseptic Patients With Acute Lung Injury

DOI: 10.1164/rccm.200310-1434OC

後項で触れますが、出血した際の血液凝固に関わる蛋白のひとつである von Willebrand 因子 (vWF) が生存群と比較して死亡群で多かったという報告です。しかも状態が悪化する中で死亡する群では最初から vWF が多かったのです。ARDSでお亡くなりになる方はかかる前から vWF が増加している何らかの素因を持っている可能性があります。

 

凝固異常の観点から見たコロナウイルスによる重症化を来たすメカニズム

コロナウイルス が重症化する病態のひとつに血栓症、多臓器不全があります。凝固異常が関与しています。

ウイルス感染により障害された血管内皮細胞から凝固第8 因子とvon Willebrand 因子が放出され血小板凝集そして凝固系が活性化されていきます。

 

 

重症化と血液型との接点に関する推測

コロナウイルスの重症化が血液型に影響されるのかどうかを解明していくにあたり以下の2つのポイントから推測してみます。

① ウイルスが細胞に侵入する際の結合部位であるACE2 – スパイク蛋白部位が血液型抗体の影響を受けている可能性

② ウイルスが細胞に侵入した損傷部位で起こる血小板凝集反応が血液型抗体の影響を受けている可能性です。

 

​① ACE2 – スパイク蛋白結合が抗A抗体からうける影響

ACE2 と​SARSウイルスのスパイク蛋白との結合を抗A抗体が阻害する報告です。

Inhibition of the interaction between the SARS-CoV Spike protein and its cellular receptor by anti-histo-blood group antibodies

doi: 10.1093/glycob/cwn093

 

 

新型コロナウイルスが細胞に侵入するにあたり同じ経路ACE2を持つSARSウイルスを用いた報告です。

この論文によるとO型やB型が持っている抗A抗体を加えると細胞とコロナウイルスの結合が低下しています。つまりO型やB型では細胞内に入ってくるウイルスが少ないという結果です。

 

② 血小板凝集反応が抗A抗体から受ける影響

出血するとそれを止めようと止血が始まります。血管内皮や血漿中にある von Willebrand 因子 (vWF) が糊のように血小板をどんどんくっつけていくのです。

 

 

vWF はADAMTS13 という酵素によって適切な長さに切断されていきます。このADAMTS13 による切断が抗A抗体があるかないか、つまり血液型の違いによって異なるという日本からの報告です。

Blood group antigen A on von Willebrand factor is more protective against ADAMTS13 cleavage than antigens B and H.

DOI: 10.1111/jth.14444

 

この論文では抗A抗体を持たない血液型 A、AB は抗 A 抗体を持つ血液型 O、B 型と比較して ADAMTS13 によって vWF が切断されにくいという結果です。

つまり抗A抗体を持たない血液型 A, AB において vWF は切断されにくいために大きな vWF が残ってしまい、血小板凝集やそこから始まる凝固系が活性化されていく可能性があります。抗A抗体を持っている血液型O、B型では vWF はより切断されやすくなり、より血小板凝集や凝固亢進がおこりにくいとも言えます。

 

まとめますと

コロナウイルス 感染症の重症化に血液型の違いが関与しているとすれば

① ウイルスが人間の細胞に侵入する部位において抗A抗体(血液型O型、B型が持っている)が細胞側のACE2 とウイルス側のスパイク蛋白との結合を阻害する。

② ウイルス侵入による血管内皮細胞の損傷によって血小板凝集反応が起きるが、その際に抗A 抗体があると抗A 抗体がない場合と比較して von Willebrand 因子が切断されやすくなり過剰な血小板凝集やそれに続く凝固亢進が起こりにくくなる

の2点が挙げられます。

 

これから重症化に寄与する原因の解明が進み色々な事が分かってくると思います。遺伝子の解析という分野から新しい知見が得られ、この感染症が早くコントロールできるようになることを願っています。

 

 

 

新型コロナウイルスにかかったら免疫がいつまで持続するか

コロナウイルスにかかった人がどのくらいの期間免疫が持続して再感染を起こさないか気になるところです。

そのヒントになるのが同じコロナウイルスの仲間であるSARSウイルスに罹った患者さんの抗体の保有率と抗体価を3年間にわたって調べた下記の2論文です。

 

まずは一つ目の論文から

Duration of Antibody Responses After Severe Acute Respiratory Syndrome

DOI: 10.3201/eid1310.070576

 

同じコロナウイルスの仲間であるSARSウイルスは2003年中国広東省から起こりました。その患者さんの血液中の抗体を3年間にわたって調べて報告しています。

SARSにかかって抗体をもっていた18名の患者さんが3年たつと10名だけ抗体を持ち続け8人が抗体を消失しました。

抗体量の目安となる吸光度は 6か月後 0.96から3 年後 0.249に 低下しています。

つまり罹ってから3年すると免疫を保有する人が少なくなり、免疫力も低下するるという結果でした。

 

 

次の論文は同じSARSコロナウイルスの部位別の免疫持続を調べたものです。

 

Longitudinal Analysis of Severe Acute Respiratory Syndrome (SARS) Coronavirus-Specific Antibody in SARS Patients

DOI: 10.1128/CDLI.12.12.1455-1457.2005

 

この論文ではSARS確定者19名のうちコロナウイルスの表面にあるスパイク蛋白 spike protein(黄色)に対する抗体とRNAを包んでいるヌクレオカプシド蛋白(Nucleocapsid protein(赤色)に対する抗体を3年間にわたって調べています。

するとスパイク蛋白に対する抗体は3年間にわたり全員保有し、抗体量もヌクレオカプシド蛋白よりも保たれていることが分かりました。

 

 

この2論文から導き出されるのは

SARSコロナウイルスに対する免疫は3年間で消えていく

しかし

ウイルス表面の棘状のスパイク蛋白に対しては免疫を3年間保ち続ける

いうことです。

 

第2波が警戒される中、今回の新型コロナウイルス感染症にかかったあとどのくらい免疫が持続するのか大切な問題です。またこの2つ目の研究からスパイク蛋白をターゲットとしたワクチンが出来た際は有効性を長期間保ってほしいと願うばかりです。

 

 

 

自分たちを守るための予防策

 

手洗いは頻回に行ってください。アメリカCNN放送のコメンテーターであり医師でもあるSanjay Guputa 氏が手洗いのコツを伝えています。てのひらだけでなく手背と親指も洗うこと、紙ペーパーの使い方にも手に感染させない工夫がみられます。1分弱の動画をリンクします。

うがいも有効ですが薬剤は濃く用いると粘膜障害を来すことがありますのでご注意ください。同じく鼻洗浄も有効と思われます。

 

 

 

マスクの効果を考えさせられる相反する 2つの論文

マスクがウイルスを吸着させるメカニズムは以下の4つにあるとされています。①慣性衝突 (inertial impaction)、②直接捕集 (interception)、③拡散 (diffusion)、④静電引力 (electrostatic attraction)です。

 

 

マスクの効果は

① 感染者がウイルスのついた飛沫を飛ばさないこと

② 鼻やのどのなどの上気道の湿度を保ち粘膜の防御システムを維持すること

③ マスクをすることによって鼻や口を直接触る機会が少なくなること

などが挙げられます。ウイルスは粒子が小さいため一般的なマスクは通過してしまいます。マスクをすることでどれだけウイルスの侵入を防げるかはまだよくわかっていませんがここが多くの皆さんが知りたいところですね。

 

一つ目の論文は咳やくしゃみをする感染者がマスクをすることでウイルスを飛沫やエアロゾールの形で周囲に飛ばさない(赤点線)ことを示しています。

Respiratory virus shedding in exhaled breath and efficacy of face masks

DOI https://doi.org/10.1038/s41591-020-0843-2 

 

前述したように発症する前からウイルスを放出していることが分かっています。自分は症状はないけれどももしかして潜伏期でウイルスを排出しているかもしれないので外出する際はマスクをする。そのことで周りの人に感染をひろげないというマスクエチケットも大切な考えだと思います。

 

 

 

もう一つの論文を紹介します。この論文は韓国から発表されました。

 

Effectiveness of Surgical and Cotton Masks in Blocking SARS-CoV-2: A Controlled Comparison in 4 Patients

DOI: 10.7326/M20-1342

 

新型コロナウイルス感染者4名にサージカルマスクをした状態とコットンマスクをした状態でそれぞれ咳を5回ずつさせて20㎝離れたシャーレとマスクの外側、内側のウイルス量を測定しています。

 

 

結果です。

サージカルマスクやコットンマスクをしていても20㎝先にウイルスを拡散させてしまうというもので先程の論文と結果が異なっています。またマスクの内側よりも外側のほうがウイルスが存在しているというものでした。

マスクの外側にウイルスが存在しているということであればマスクを触れた際はかえってウイルスを手に付けて広げてしまうので、マスクに手を触れたらすぐに手洗いをしたほうが良いということになります。マスクを触らないということも大切になってきます。

眼鏡をおかけの方も眼鏡をさわることがありまめに洗浄するといいと思います。

 

N95仕様マスクを使用する際はしっかりと顔面に漏れがないように密着させてください。ちなみにN95マスクとは0.5㎛の微粒子を95%以上捕集できるマスクのことです。N95マスクの再利用に関してアルコール噴霧消毒はウイルスの捕集、吸着能力を低下させるとの報告もあります。

またマスク素材の面からナノファイバー技術を用いてウイルスを通さないマスクも開発されてきています(ヤマシンフィルター株式会社が建機用オイルフィルターから応用して作製しています)。

 

 

 

 

 

ハムスターを用いた新型コロナウイルスに対するマスク効果

(マスクをすることで人にうつさない、自分もかからない)

 

新型コロナウイルスに対するマスクの効果を正確に調べるためにはできるだけバイアスが少なく公平になるようなランダム化比較試験 (Randomized controlled Trial)を行うことが望ましいとされています。

しかしながら この感染に対してマスクをする群、しない群と無作為に割り当てて検査を進めていくことは倫理的に難しい面があります。

そこで香港大学からハムスターを用いて人間がマスクをすることに見立てた報告がありましたので紹介します。

感染ハムスターがマスクをした場合(感染者がマスクをする)、健常ハムスターがマスクをした場合(健常者がマスクをする)の感染の広がりを調べています。

 

Surgical Mask Partition Reduces the Risk of Non-Contact Transmission in a Golden Syrian Hamster Model for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)

DOI: 10.1093/cid/ciaa644

 

 

この論文では感染ハムスターのケージと健常ハムスターのケージを隣り合わせに置き、通気孔にマスクを取り付けて感染の状況をみています。ケージは別々なので接触感染はなく、呼吸器飛沫感染、空気感染が想定されます。

コロナウイルスの感染の有無は症状、ウイルスの培養、組織学的所見から診断しています。

結果です。

まず① 感染ハムスター、健常ハムスター両方ともマスクをしない場合は 1週間以内に健常ハムスターの66.7%に感染が認められました。

次に② 感染ハムスターにマスクをした場合、健常ハムスターの16.7%に感染が見られました。

③ 今度は健常ハムスターにマスクをした場合、健常ハムスターの 33%に感染が認められました。

つまりマスクの基本的な考えの中にマスクをすることで他人を感染させない(an act of altruism)ことがありますが実験 ②がそれを示しています。感染者がマスクをすることで感染率を66.7%から16.7%にまで押し下げているのです。

それだけでなく実験 ③から言えることは健常ハムスターがマスクをしない状況では感染率は 66.7%ですが、健常ハムスターがマスクをすることにより感染率を 33.3 %に減らしています。マスクをすることで自分が感染するリスクを減らせることを示しています。

 

 

 

免疫を高めるために

 

 

 

免疫を急に高めることはむずかしいことです。栄養をよく摂取し休息を多めに取り適度に体を動かすことが基本です。家にいて近くばかりみているかたは時に遠くの緑などを見てリラックスしてください。

以下に挙げることを参考にしていただければと思いますが、度が過ぎてもいけないところもありますのでご注意ください。

自然食品 コロナウイルスは高血圧でも知られているACE2(Angiotensin Converting Enzyme 2)  という酵素を介して体内に広がることが分かっています。細胞内に侵入したコロナウイルスはACE2の発現や活性を弱めます。すると一連の血圧を調整しているレニンアンギオテンシン系に影響して急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や心筋障害(心不全)に関与すると言われています。

味噌がACE2が関与するレニンアンギオテンシン系の亢進を抑えるという研究報告があります。特に米や麦味噌よりも大豆味噌が、熟成させたものよりもより新しいほうが、大豆の子葉よりも胚軸からのほうがより抑える働きが強いとの報告があります。

ブロッコリーから抽出したブロリコ、メカブから抽出したメカブフコダイン、ハラタケ属キノコから抽出したアガリスク、アサイーなども免疫を高めることが期待されますが免疫系はより複雑でありそう摂取したから簡単に上げられるものではないようです。

血圧に関与するACE2の話が出ましたのでこれと関連して降圧薬を内服している方が感染したときに内服を続けるべきか、中止すべきかとの議論があります。

理論上はACE阻害薬やARB薬という系統の降圧薬はレニンアンギオテンシン系をコントロールしているので肺障害や心筋障害を起こさないように守っている役割があります。よって内服中の方がもしコロナウイルス感染症にかかっても降圧薬は急に中止しないほうがよいとされています。

ACE阻害薬であるキナプリルquinapril(商標名コナン)はコロナウイルス感染症の治療薬として治験されており結果を待ちたいところです。

 

 

 

果物や野菜などビタミンをはじめとしてバランスよく栄養をしっかりと摂ってください。

亜鉛に関しては肉、卵、チーズ、ココアなどに入っており、普通のバランスのとれた食事で十分です。また食品添加物は亜鉛の吸収を妨げ、アルコールは亜鉛を排出させます。また亜鉛の過剰摂取は前立腺肥大をもたらすと言われています。

睡眠を十分とりストレスを少なくしてください

運動も適度に行うことで免疫機能が高まることが知られています。周りに人がいない屋外で、疲れない程度に行ってください。

禁煙 に努めてください。呼吸器感染を増悪させる要因の一つです。

 

 

 

 

自分の体温を知ろう

 

体温は1日のうちでも約1℃の変動があり、夜明け前あたりが最も低く、午後から夕方にかけて高くなってきます。若年者のほうが高齢者より変動が大きいとの報告もあります。

感染症法では、37.5℃以上を「発熱」、38.0℃以上を「高熱」に分類していますが個人差がありますので平熱が高く、周りから気にされているかたはご自身の体温を計測しその変化と標準偏差を知っておくとより良い説明ができるかもしれません。

下記に標準偏差を利用した体温の把握方法を記載します。

 

同じ時間帯でできるだけ同じコンディションで毎日の体温を計測すると良いでしょう。食後は体温が高くなりがちなので食前が良いと思います。​

体温を計測してその数字を積み重ねていくと平均値 AVGと標準偏差 SD(ばらつきの目安)を知ることができます。​正規分布が応用できるとすれば AVG ±SDにデータの68%が入り(右表)、AVG±2SDに96%が入るとされるのでAVG+2SD を越えたらいつもと違う状態だという目安になるでしょう。​

ご自身の体温の標準偏差を求めるにあたってここでは簡単に5日間の出勤前の体温が 36.4, 36.8, 37.0, 36.0, 35.8℃を例に計算してみましょう。​

5日間の平均は(36.4+36.8+ 37.0+ 36.0+ 35.8 )÷5= 36.4℃です。​

分散は【(36.4-36.4)2+(36.8-36.4)2+(37.0-36.4)2+(36.0-36.4)2+(35.8-36.4)2】÷5 = 1.04÷5 = 0.208となります。​

標準偏差SDはその平方根ですので√o.208 = 0.456 と求まります。​

よって体温が36.48 (AVG) ± 0.456 (SD) の範囲でおさまっていれば平常と考えて良く、また36.4 ±0.912 (2SD) を逸脱するとつまり37.312度(表示では37.4℃になります)を超えるとその方にとって異常な体温と言えるかもしれません。​

 

 

非接触型体温計について

また職場の検温では便利さもあって赤外線を用いた接触型体温計がよく用いられます。​

手早くそして触れずに計測できることは大きなメリットです。

ただし皮膚表面の温度を計測しており外気温の影響や汗による影響などばらつきが大きくなることに注意が必要です。

もし異常値が出たら腋窩などで再検してみて下さい。​

 

下記の小児救急現場から報告された論文では深部体温と非接触型で計測した温度との比較が出ていますが深部体温とばらつきが出る場合があり注意を要します(額からの非接触型温度データにおいて深部体温を反映する直腸温と比較して1,96SD以上の乖離したデータが散見された。赤丸点線群)。

また前額部より頸動脈あたりの首にあてた方が深部体温との誤差が少ないことも報告されています。

 

 

 

ウイルス除去剤

次亜塩素酸 薄めた商品名ハイターによる床拭きはウイルス除去に有効との考えがあります。次亜塩素酸を使用する際はお部屋の換気をして手荒れ、他の薬剤を混合しないように気をつけてください。次亜塩素酸に関しては0.1%(=1000ppm) 濃度にて1分でコロナウイルスが消失する報告があります。

下記にキッチンハイターでの作り方を示しました。

微酸性電解水も次亜塩素酸を用いたものでありpH5-6.5( 中性は7)で有効塩素濃度10-30ppm にしてあります。より安全にそしてより効果的に作られた食品添加物ですが、飲用ではありません。

 

 

花王のホームページからハイターやキッチンハイターによる次亜塩素酸液の希釈の目安が掲載されていますので転記させてください。日にちが経つと濃度が低下していくことに注意が必要です。

 

二酸化塩素 一定の抗ウイルス効果が期待されていますが、湿度30%以下の低湿度環境下ではウイルスを抑え込めないとの指摘があります。人体の健康には影響しないと言われています。

アルコール製剤 コロナウイルスはエンベロープ(被膜)をもつウイルスでアルコールにより不活化します。商品名ノロスターは弱酸性の食品添加物であり、アルコールに硫酸マグネシウムを足すことでコロナウイルスを除去することが期待されています。

空気清浄機 原理は放電したイオンや電子を放出して浮遊するウイルスに付着して死滅させるものです。3時間漂うとされる微小飛沫に対しては有効な可能性がありますがこれだけで感染をすべて予防できるものではないことに注意が必要です。

 

 

 

コロナウイルスと温度の関係

ウイルスは基本的に煮沸で死滅します。台所など煮沸消毒できる場所には有効です。一方このウイルスは低温には強いようです。

冷蔵庫4℃の中で20度の室温と比較してウイルスの活性はなかなか落ちず、3週間プラスチック上で活性を保っていた報告があります。

気温に関してはどうでしょうか?

中国都市における気温とコロナウイルスの流行を見た論文(Temperature significant change COVID-19 Transmission in 429 cities. Mao Wang et al) では気温が低くなると流行が多くなるという報告です。

また今までのコロナウイルスは20℃より30℃の方が早く消失すること、室温で最大9日間存在していることが報告されています(写真下右)。東南アジアでは冷房を使用せず窓を開けて室温を上げるようにとりくんでいる国もあります。気温との関連はこれから疫学統計をみていく必要があります。

 

 

 

コロナウイルスと湿度の関係

今までウイルスは湿度に弱いのではないかと考えられてきました。

1985年に報告された従来のコロナウイルスと湿度の関連に関する論文(写真下左)では、気温20℃においてコロナウイルスが早く消失するのは湿度80%、20%、50%の順です。

徹底的に湿度を(0%以上に高めたほうが良いのか? それとも極端に20% 以下に低くしたほうが良いのか? 地理的条件、季節などを考慮すると判断が難しいところです。

この数年のインフルエンザウイルスの流行をみると特に赤道周囲の暖かい湿度の高い国々において通年性に流行が見られており、我が国における新型コロナウイルス感染症が高湿度の梅雨や夏季にも続くのか注視していかなければいけません。

何よりも閉鎖空間で対人2メートル以内にいることを避けることがまず大切です。

 

 

 

 

 

紫外線によるウイルス不活化作用

紫外線のなかでも200nmから280nmの波長をもつUV-C には殺菌作用(空気殺菌、水殺菌)や脱臭作用があることが知られています。

自動車機器製品等を製造しているスタンレー電気株式会社からより効率的にUV-Cを発する冷陰極管が発売されておりコロナウイルスの不活化に応用できないか注目されています。

また塩素と同時に紫外線を当てるよりも塩素でたたいた後に紫外線をあてる方がウイルス(この実験では塩素単独では効きにくいMS2ウイルスを用いています)を不活化させる作用が大きいとの論文報告があります(下記表②)。

 

 

 

 

 

光触媒による抗ウイルス効果

酸化チタンは化粧品や日焼け止め、壁の染料として幅広く用いられています。酸化チタンは光触媒作用をもっており脱臭や抗菌作用を持つことが知られています。

酸化チタンが光をうけると電子が放出されその際に活性酸素のひとつであるOHラジカル(-OH)ができます。このOHラジカルがウイルスの被膜を破りウイルスを不活化させるという仕組みです(下図上)。

ロシアからはこの酸化チタンがウイルスを不活化させる報告があり電子顕微鏡でその様子をとらえています(下図中)。

 

 

酸化チタンの抗ウイルス効果が期待される一方で酸化チタンを使用するにあたっていくつかの指摘があります。

一つは酸化チタンの光触媒は400ナノメートル以下の紫外線にしか起きないこと。

もう一つは酸化チタン微粒子は用量によっては発がん性が疑われていることやサイトカインを介した肺炎の増悪が動物実験にて報告されていることです。

Titanium dioxide nanoparticles exacerbate pneumonia in respiratory syncytial virus (RSV)-infected mice. Hashiguchi S et al.

光触媒の特性をもつ物質に酸化チタンの他にタングステンが知られています。

タングステンは単独では光触媒を起こしにくいといわれていますが、白金や銅などと複合させることによって改良が加えられています。酸化チタンと異なり蛍光灯を含めた幅広い光の波長で光触媒が誘導されることが知られています。

光触媒による抗ウイルス効果に関してはまだはっきりとわかっていないことが多いですが、いろいろな研究機関や企業で試みられています。効果と安全性がこれからわかってくると思います。

 

 

 

オゾンによるウイルス不活化作用

2020年5月奈良県立医科大学からオゾンを用いて新型コロナウイルスを不活化させる報告がありました。

オゾンといえばオゾン層を思い浮かべる方も多いと思います。オゾン層は上空 25 ㎞あたりにある成層圏の中で最もオゾンを含んでいる層のことです。2020年3月に北半球であまりみられないオゾンホールが出現したことは記憶に新しいところです。

オゾン濃度は ppm (part per million) で表示されます。 1ppm は0.0001% に相当します。

奈良県立医科大学の資料によるとオゾン生成器を用いて 1-6ppm 約1時間でウイルスを不活化させています。

 

ウイルスを不活化させるメカニズム

不安定なオゾン (O3) は酸素 (O2)と酸素原子 (O) に分かれます。この分離した酸素原子が強い酸化作用をもっており、ウイルスの被膜を破壊するというものです。酸化作用はフッ素に次いで強いものです。

 

 

オゾンの半減期

オゾンの半減期(半分に減るのに要する時間)は温度、湿度、風の流れによって異なります。

40ℓシリンダー内での実験では室温24℃、湿度87%、風なしで半減期  451分、また室温  4℃、湿度  0%、風なしでは半減期 2439分 という報告があります。オゾン水になると半減期は10分から60分と少なくなります。

 

オゾンの毒性

オゾンによってウイルスを不活化させる報告はこれからウイルスと対峙していくにあたり参考になりますが、オゾンを使用するにあたっては濃度に気を付ける必要があります。高濃度を吸入すると呼吸器症状や時に命にかかわる状態となりえます。生成器を使用される方は部屋の広さと稼働時間を考慮しながら説明書を十分に読んでから使用してください。

 

 

 

新型コロナウイルス感染症に対する治療の試み

 

現段階で有効な治療方法は確立されていません。

2004年に起きたSARSの際にステロイド、C型肝炎に用いられた抗ウイルス薬 ribavirinが試されましたが明らかな優れた効果は得られませんでした。

今回のCOVID19では従来から使われている抗HIV薬、抗インフルエンザ薬、抗リウマチ薬、降圧薬、抗生剤、回復して抗体をもった血漿治療、新薬など様々薬剤が治験されており良い結果を待ちたいところです。

 

 

 

2020年4月におけるコロナウイルス治療に対するカレトラとレムデシビルの報告

感染治療薬として新しい薬を開発する流れと同時に既存の薬を応用する流れ(ドラッグリポジショニング)があります。既存薬は比較的安全性が確立されていますので新薬ができるまでは既存の薬で効くかどうかを検証していくことが実際の臨床現場で行われています。

 

HIV(エイズ)に用いられるカレトラ(Ropinavir と Litonavir  の配合剤)が99名のコロナウイルス肺炎に投与された結果が中国から発表されました。

 

A Trial of Lopinavir-Ritonavir in Adults Hospitalized With Severe Covid-19

DOI: 10.1056/NEJMoa2001282

 

患者さんの同意を得てカレトラかプラセボ薬か知らされずに28日後の治療効果をみたものです。

結果は残念ながらカレトラを投与しなかったグループと比較して統計上の有意差は出なかったものの下の左グラフを見ると、投与したほうが若干良いかとの印象を与えます。

この研究では重症度や発症してから投与開始までの期間など患者背景が異なっているためさらなる大規模なデータが求められます。発症してからできるだけ早くカレトラを使用した効果を知りたいところです。

 

右下は我々に比較的なじみが薄いエボラ出血熱やマールブルグウイルス感染症の治療薬であるレムデシビル ( Remdesivir ) を米国、欧州、日本の53名に注射した効果をみたものです。

 

Compassionate Use of Remdesivir for Patients With Severe Covid-19

DOI: 10.1056/NEJMoa2007016

 

病状が進行して人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)などを使用している重症者にはやはり効果がうすい印象をもちます(赤丸群)。

 

 

 

 

クロロキンとアジスロマイシンの組み合わせ(chloroquine + Azithromycine)

また有望な治療方法がマラリアの治療に使われているクロロキンを応用したヒドロキシクロロキンとマクロライド系の抗生剤アジスロマイシン(商標名ジスロマック)の組み合わせです。

まだ少人数ですが南仏の病院でこの組み合わせで新型コロナウイルス肺炎を治療したところ5日後に鼻腔からウイルスが検出されなくなったという報告があります(下写真左)。

 

Hydroxychloroquine and Azithromycin as a Treatment of COVID-19: Results of an Open-Label Non-Randomized Clinical Trial

DOI: 10.1016/j.ijantimicag.2020.105949

 

クロロキンの効果について複数のメカニズムが働いている可能性があり、ウイルスが①人の細胞に寄せ付けない、②人の細胞の侵入経路で阻害する、③人の細胞内で増殖を断つ、④肺内に余分な水分を貯めないなどです(下写真右)。

日本でも気管支炎などに良く用いられるジスロマックやクラリスなどのマクロライド系抗生剤は単独でというより他の薬と組み合わせることでこのウイルスを減少させる可能性があります。

この論文での内服用量は日本で使用されている用量とやや異なり、消化器症状、網膜への影響など使用にあたっては副作用に十分注意が必要です。

 

 

 

ニューヨークからのヒドロキシクロロキン治療に関する論文

令和2年5月、上記の南仏からの報告内容と異なり米国ニューヨークからはより多くの新型コロナウイルス感染症の患者さんにヒドロキシクロロキン内服治療(811人)を行い、ヒドロキシクロロキン非内服群(274人)と比較して人工呼吸器挿管や死亡とは関連がなかった。つまりヒドロキシクロロキンは人工呼吸器になることを減らしたり死亡を減らしたりすることがなかった、良くも悪くもしなかったという論文が発表されました。

下右表赤線がヒドロキシクロロキン内服群です。青の非内服群と比較して30日後においてやや減らしているようにも見えますが統計上では有意差なしです。劇的に改善するということではないようです。

クロロキンは古くからの抗マラリア薬で、ヒドロキシ基を付けることにより網膜に対する副作用を少なくしています。わが国では膠原病の一つであるエリテマトーデスの治療に用いられています。嘔気や網膜障害などの副作用がみられることがあり禁忌は網膜症、黄斑症、6歳未満となっています。

Observational Study of Hydroxychloroquine in Hospitalized Patients with Covid-19.

DOI:10.1056/NEJMoa2012410

 

 

 

次はこの新型コロナウイルス感染症を治療するにあたりクロロキンとヒドロキシクロロキンの選択を大いに躊躇させるだけのインパクトを持った論文です。

Hydroxychloroquine or chloroquine with or without a macrolide for treatment of COVID-19: a multinational registry analysis

DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31180-6

 

このクロロキンは以前より心臓の収縮拡張に関わる心筋の再分極異常を来たし、心電図上にQT延長がみられ、危険な不整脈である心室頻拍や心室細動をきたすことが知られていました。併用で処方されるマクロライド系も QT延長が見られることがあります。

どうやらクロロキンによる治療は単独でも不整脈をもたらし死亡に関与する可能性がありそうです。

 

 

この論文では世界中の感染者 96032人を生存者85334人と死亡者10698人 (11.1%) に分けて解析しています。

治療薬クロロキン単独群 1868名、クロロキンとマクロライド抗生剤群 3783名、ヒドロキシクロロキン単独群 3016名、ヒドロキシクロロキンとマクロライド群 6221名はいずれも院内死亡リスクの上昇と心室性不整脈に関与することが示されました。

またこの解析から降圧薬であるACE阻害薬内服群、アジア人種、敗血症がないこと、コレステロールの薬であるスタチン系内服群、女性が死亡リスクの低下に関与していることが分かりました。

ACE阻害薬は降圧作用だけでなく心臓の負担を減らす心不全の治療薬としても使われておりレニンアンギオテンシン系のホルモンが暴走しないように調節しています。また血清カリウムを下げない薬でもあり心室性不整脈が起こりにくい状況を作っています。

 

研究のデザイン、対象となる人数の規模、治療環境、人種差など治療薬の評価判定は報告によって分かれるものですね。次はアビガン(favipiravir)治療に関する中国からの論文です。

 

 

中国からの アビガン治療に関する臨床論文

Experimental Treatment With Favipiravir for COVID-19: An Open-Label Control Study DOI: 10.1016/j.eng.2020.03.007

 

この論文は2020年2月に投稿されましたが、いったん取り下げられました。その理由をめぐり話題となった論文です。その後に加筆修正が行われ、論旨を変更することなく掲載されました。

研究内容は新型コロナウイルス感染にかかった患者さんにアビガン(35名)で治療した群、カレトラ(45名)で治療した2群に分け、2週間にわたってウイルス排出量と胸部CTにおける肺炎像を比較検討しています。

 

 

結果です。

アビガン群では平均4日でウイルス排出量が半分になり、一方のカレトラ群では11日でした。

胸部CTを4,9,14日で撮影しています。アビガン群がカレトラ群と比較して肺炎像が有意に改善したのは2週間後でした。アビガン治療により2週間後 35名中32名が肺炎像の改善を認めておりこれからのコロナウイルス肺炎の治療におおいに期待をもたせます。

一方でみんなが期待しているアビガンをもってしても 3名の方が改善しないというのはこの病気のこわさを物語っています。

 

 

日本からの報告

2020年3月2日、気管支喘息吸入薬シクレソニド(商品名オルベスコ)がコロナウイルス肺炎に対して効果があるとの報告が神奈川県立足柄上病院よりありました。

シクレソニドの抗ウイルス効果を含めてこれから応用、検証されていくと思いますが効果を期待したいところです。

 

 

シクレゾニドは他のステロイドと異なり肺がん抑制効果があることも知られいろいろなステロイド吸入薬の中でも多面的な作用を持つ可能性が指摘されています。

 

 

 

対症療法 もともとのコロナウイルスは風邪をもたらしていたウイルスです。初期は風邪症状と変わりなく漢方の葛根湯が体質に合う人には感染初期には有効な可能性があります。みなさんも内服した方は感じたかもしれませんが体が温もりウイルスを少なくする効能があります。

SARSの際には漢方薬併用が効果があったとの報告があります。左青が漢方を加えた群で漢方を加えなかった赤群と比較して免疫に関与するリンパ球が増加しています。

 

 

 

漢方薬の補中益気湯は病後の体力低下、食欲低下、全身倦怠感、感冒などに用いられる薬ですが、マウスの実験から ① 侵入した病原体を貪食するマクロファージの貪食活性を亢進させること ② 体中をパトロールしてウイルスを攻撃するNK細胞の活性を低下させないこと ③ NK細胞を活性化するインターロイキン(IL)-12 をストレス下において回復させることなどが報告されています。

つまり補中益気湯が免疫を活性化させる可能性があります。十全大補湯にも同様の報告があります。

 

 

ウイルス感染から二次的に起きる細菌性肺炎に対しては抗生剤が選択されます。医療機関で画像や採血をもとに必要時に処方されます。

抗生剤による予防効果は現在のところ報告ありません。

 

 

 

ワクチンについて

 

ワクチンの歴史

1796年イギリスの医師 Edward Jenner はより病原性の低い牛痘を人に接種することにより天然痘にかからなくなったことを報告しました。天然痘の大流行を機にこの手法が急速に普及していきました。1980年には地球上から天然痘が撲滅するに至りました。ワクチンの礎を築いた功績から免疫学の父と呼ばれています。

 

 

ワクチンの種類

従来のワクチン

生ワクチンはウイルスや細菌の病原性を弱めたワクチンです。十分な免疫ができるまでに約1か月を要します。次の別のワクチンを接種するまで27日間以上あけることが必要です。BCG、麻疹風疹、水痘、流行耳下腺炎のワクチンが生ワクチンにあたります。

 

不活化ワクチンは病原性を完全になくす処理を行って作ったワクチンです。生ワクチンより獲得できる免疫は弱いために複数回にわたって接種することもあります。インフルエンザ、日本脳炎、肺炎球菌ワクチンがこれにあたります。

 

トキソイドワクチンは細菌の出す毒素をとったワクチンです。ジフテリア破傷風ワクチンがあります。

 

これからのワクチン

新型コロナウイルス感染症が急速に世界的な流行をもたらした結果新しいタイプのワクチンが次々と開発されてきています。

 

遺伝子組み換えワクチンは無害なウイルスに病原体の遺伝子情報の一部を組み入れたワクチンです。

 

⑤  DNAワクチンはプラスミドという細胞内に遺伝子を導入する道具を用いたワクチンです。

 

⑥ 今話題となっているmRNAワクチンがあります。

 

 

mRNA はメッセンジャーRNAといいます。我々の遺伝子は二重らせん構造のDNAをもっており、生命活動に必要な蛋白を作るためにDNAにある遺伝子情報がmRNAにコピーされmRNAの情報をもとに蛋白が作られます。

2020年3月米国からコロナウイルスが人の細胞に侵入する際の起点となる棘のようなスパイク蛋白の遺伝子が報告されました。

 

Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation DOI:10.1126/science.abb2507

 

この遺伝子情報をmRNAにコピーして組み込んだのがmRNAワクチンです。

Moderna 社が開発したmRNA -1273 ワクチンはコロナウイルスが人の細胞に侵入するスパイク蛋白の遺伝子情報の一部をmRNAに組み入れたワクチンです。このmRNAが細胞内に入ると体内で無毒なスパイク蛋白質が発現して免疫が獲得できるという仕組みです。

 

 

 

 

ワクチンの有効性と安全性の考え方

ワクチンが有効であるかどうかの評価は「ワクチンをしたから罹らなかったよ。」ということで良さそうですが、疫学的には Vaccine Efficacy (VE) という指標があり、接種しなかった人の発病率 aと接種した人の発病率 b から求めます。Vaccine Efficacy (VE) = (a-b)/b になります。

またワクチンを評価するうえで

① 感染しないために

② 発症しないために

③ 重症化しないために

④ 死亡しないために

どのくらい有効であったかというエンドポイントをふまえた視点もあわせてもちたいものです(下図上)。

 

ワクチンの有効性を高めるためにはアジュバントというアルミニウム塩、スクアレンなどの補助剤を加えたり、薬剤が目的の場所に効率よく届き、長くとどまるドラッグデリバリーシステム(DDS)も重要になってきます。

 

2020年5月現在コロナウイルスに対する多くのワクチンが開発されてきていますが、ワクチンに反応しない non-responder の割合やワクチンの有効期間、今後ウイルスが変異してきたときにも有効かどうかなども有効性をみていくうえで大切です。

 

一方で安全性に関しては抗体依存性感染増強(ADE Antibody Dependent Enhancement)という接種したワクチンの影響で再感染したときに初感染よりも致命的になることも報告されており注意を要します。まだ知られていない複雑なメカニズムが働いている可能性があります。

 

 

 

ワクチン承認の流れ

ワクチンを行うにあたっては有効性と安全性が重要です。

実際に我々が接種するまでには細胞を用いた試験管の中での効果、動物での効果を経て臨床治験に入ります。

臨床治験は 3段階からなり第1相は少人数の健康な大人を対象とし治験薬の安全性や吸収排泄を確認します。第1相を経て第2相では治験薬の用法用量を決め、少人数の患者さんに対して有効性と安全性を確認します。次の第3相では多くの患者さんに使用し有効性と安全性、使用方法を確認します。その過程をすべてクリアして初めて承認申請を行うことになります。より大規模に行われたデータを集めた施行後調査も大切です。

日本では従来の新薬開発は臨床試験だけで3-7年もかかっていましたが、今回の新型コロナウイルス感染症は世界的な流行と健康や経済に甚大な影響を与えていることから早急なワクチン接種が切望されており治験期間が短縮され、ある程度の安全性が担保されれば見切り発車的に接種が開始されていくかもしれません。

 

 

おわりに

我々の生命や経済を脅かしかねない今回の新型コロナウイルス感染症ですが、これから分かってくる色々なことを参考にしながら我々は生き延びていかないといけないと思います。

内心心配になっている方も多いと思いますが、我々が積み重ねてきた科学を信じてこのウイルスのことをよく知り、そして適切に対応し、乗り越えて新しい明るい時代を築いていきたいものです。

この投稿を読んでいただいた皆様が健康で安心して生活していただくための一助となれば幸いです。

 

文責 植村 健 http://www.koseikai-uemura.jp/

 

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