コロナウイルスワクチンについて

 

コロナウイルスワクチンについて

これからコロナウイルスワクチン接種を検討されている方にワクチンについて一緒に考えていきたいと思います。

以下について解説しています。

 

① ワクチンの歴史と種類

② mRNA ワクチンとは

③ ワクチンの有効性と安全性の考え方、承認までの流れ

④ ファイザー社製のmRNA ワクチンの効果と副反応、効果持続期間

⑤ 今後の課題と問題点:J &J社製ウイルスベクターワクチンについて、血栓症の報告と機序、変異株について

 

 

 

①  ワクチンの歴史と種類

1796年イギリスの医師 Edward Jenner はより病原性の低い牛痘を人に接種することにより天然痘にかからなくなったことを報告しました。天然痘の大流行を機にこの手法が急速に普及していきました。1980年には地球上から天然痘が撲滅するに至り、Jenner はワクチンの礎を築いた功績から免疫学の父と呼ばれています。

 

 

 

 

従来のワクチン

1. 生ワクチンはウイルスや細菌の病原性を弱めたワクチンです。十分な免疫ができるまでに約1か月を要します。次の別のワクチンを接種するまで27日間以上あけることが必要です。BCG、麻疹風疹、水痘、流行耳下腺炎のワクチンが生ワクチンにあたります。

 

2. 不活化ワクチンは病原性を完全になくす処理を行って作ったワクチンです。生ワクチンより獲得できる免疫は弱いために複数回にわたって接種することもあります。インフルエンザ、日本脳炎、肺炎球菌ワクチンがこれにあたります。

 

3. トキソイドワクチンは細菌の出す毒素を取り出して毒性のないようにしたワクチンです。ジフテリア破傷風ワクチンがあります。

 

これからのワクチン

新型コロナウイルス感染症が急速に世界的な流行をもたらした結果新しいタイプのワクチンが次々と開発されてきています。

4. 遺伝子組み換えワクチンは無害なウイルスに病原体の遺伝子情報の一部を組み入れたワクチンです。ジョンソンエンドジョンソン 社、アストラゼネカ社、ロシアのsputnik V、中国のCanSino Biologicsなどが開発したウイルスベクターワクチンはこれにあたります。

 

5.  DNAワクチンはプラスミドという細胞内に遺伝子を導入する道具を用いたワクチンです。

 

6. 今話題となっている2021年2月から日本で施行予定のmRNAワクチンがあります。mRNA はメッセンジャーRNAといいます。我々の遺伝情報は二重らせん構造のDNA上にあります。生命活動に必要な蛋白を作るためにDNAにある遺伝子情報がmRNAにコピーされ mRNAの情報をもとに蛋白が作られていきます。

 

 

 

 

② mRNA ワクチンとは

 

2020年3月米国からコロナウイルスが人の細胞に侵入する際の起点となる棘のようなスパイク蛋白の遺伝子が解明され、この遺伝子情報をmRNAにコピーして組み込んだのがmRNAワクチンです。

Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation

DOI:10.1126/science.abb2507

 

pfizer 社やModerna 社が開発したmRNA ワクチンはコロナウイルスが人の細胞に侵入するスパイク蛋白の遺伝子情報の一部をmRNAに組み入れたワクチンです。このmRNAが細胞内に入ると体内でスパイク蛋白質に対する抗体が作られて感染することなく免疫が獲得できるという仕組みです。

 

 

 

 

③ ワクチンの有効性と安全性の考え方

 

ワクチンが有効であるかどうかの指標に Vaccine Efficacy (VE) があります。接種しなかった人の発病率 aと接種した人の発病率 b から求めます。

Vaccine Efficacy (VE) = (a-b)/b になります。

ワクチン有効率が 90% という数字はワクチン100人接種して90人が発病しませんでしたということではありません。

例えばワクチン非接種者 100人うち発病者 20名、ワクチン接種者 100人うち発病者 2名であったとして

発病率は非接種者 20%、接種者 2% となり

有効率は (20 – 2 )/ 20 = 90% と求められます。

 

またワクチンを評価するうえで

① 感染しないために

② 発病しないために

③ 重症化しないために

④ 死亡しないために

どのくらい有効であったかというエンドポイントをふまえた視点もあわせてもちたいものです(下図上)。

 

ワクチンの有効性を高めるためにはアジュバントというアルミニウム塩、スクアレンなどの補助剤を加えたり、薬剤が目的の場所に効率よく届き、長くとどまるドラッグデリバリーシステム(DDS)も重要になってきます。

ワクチンに反応しない non-responder の割合やワクチンの有効期間、今後ウイルスが変異してきたときにも有効かどうかも大切になってきます。

 

一方で安全性に関しては抗体依存性感染増強(ADE Antibody Dependent Enhancement)という接種したワクチンの影響で再感染したときに初感染よりも致命的になることも報告されており注意を要します。まだ知られていない複雑なメカニズムが存在している可能性があります。

 

 

 

ワクチン承認までの流れ

ワクチンを行うにあたっては有効性と安全性が重要です。

実際に我々が接種するまでには細胞を用いた試験管の中での効果、動物での効果を経て臨床治験に入ります。

臨床治験は3段階からなります。

第1相は少人数の健康な大人を対象とし治験薬の安全性や吸収排泄を確認します。第1相を経て第2相では治験薬の用法用量を決め、少人数の患者さんに対して有効性と安全性を確認します。次の第3相では多くの患者さんに使用し有効性と安全性、使用方法を確認します。

その過程をすべてクリアして初めて承認申請を行うことになります。より大規模に行われたデータを集めた施行後調査も大切です。

従来の新薬開発において臨床試験だけで3-7年もかかり承認まで15年以上かかることもありました。今回の新型コロナウイルス感染症は世界的な流行により世界中の人々の健康や各国の経済に甚大な影響を与えていることから早急にワクチン接種が切望され、臨床試験を並行させることによって開発期間を短縮し、国別に緊急承認がおりていきました。

 

 

 

日本では厚生労働省が2021年2月12日に薬事食品衛生審議会部会にてpfizer 社製のワクチンを承認する運びとなり、2月17日から医療従事者を対象とした接種が開始される予定となっています。

世界的にみると下のグラフにあるように接種開始時期に関して先進国の中で出遅れていることが分かります。イスラエルやアラブ首長国連邦は世界に先駆けてワクチン接種が幅広く行われています。このことに関しては各国の事情(ワクチン接種に対する政府の主導、国民の理解とアクセシビリティ、ワクチン後の地政学や経済を見据えた政治的思惑、ワクチンメーカーとの契約など)が絡んでいます。

 

 

 

 

④ ファイザー社製のmRNA ワクチン(コミナティ筋注)の効果、副反応、持続期間について

では日本で最初に認可されるファイザー社製のコロナワクチン(BNT162b2 コミナティ筋注) はどのようなワクチンかみていきましょう。

 

治験デザイン

ファイザー社のホームページによると2020年前半から米国、欧州、中南米、南アフリカの150以上の治験施設で約44,000人の治験に参加しました。対象は16歳以上となっており、妊婦や授乳中への移行についてのデータは充分ではありません。12−15歳へのワクチンの評価が順次進められています。集団免疫を獲得するには児童へのワクチンが欠かせないとの意見もあります。

 

作用機序

このワクチンの脂質ナノ粒 子の中に修飾ウリジンメッセンジャーRNA(mRNA)が封入されています。ワクチン接種によりmRNAが細胞に取り込 まれ、mRNAにコードされるSARS-CoV-2のスパイクタンパク質が一過性に発現します。(mRNAから産生されたタンパク質は9日後に消失していることからmRNAは9日以内に消失すると考えられています。)

そしてスパイクタンパク質に対する① 中和抗体産生及び② 細胞性免疫応答が誘導されることで SARS-CoV-2が細胞内に侵入するのを防ぎ、感染予防に寄与すると考えられています。

日本医師会が出しているコミナティ適正使用ガイドにワクチンの作用機序に関して分かりやすい図説がありましたので引用させてください。

https://www.med.or.jp/dl-med/kansen/novel_corona/sokuho/comirnaty_guide.pdf

 

 

ワクチンを接種することによってウイルス蛋白を認識したCD4+ヘルパーT細胞が① B細胞を活性化してウイルスを中和させるルートと② CD8+T細胞を活性化させて感染した細胞を排除するルートがあることがわかっています。

 

接種方法と部位、注意点について

2回の筋肉注射、2回目は間隔を3週間おきます。効果の観点から上腕の三角筋内への筋肉注射が行われています。

 

 

注射を受ける際はできるだけ神経を損傷する合併症を少なくするために手は腰に当てるのではなくまっすぐおろしておいてください。接種後は揉む必要はありません。

 

有効率

国際共同第3相試験で 2回目接種 7日後から評価したSARS-CoV-2感染歴のない参加者の集団(1つめの主要評価項目)、SARS-CoV-2感染歴のある参加者と感染歴のない参加者を含む集団(2つめの主要評価項目)の両方において、ワクチンの有効率は 95%との報告です。また有効率は年齢、性別、人種・民族にかかわらず認められていました。さらに長期的な予防効果と安全性を評価するためにすべての治験参加者の評価を2回目接種から2年間継続することになっています。

 

 

副反応

気になる副反応ですが、注射部位疼痛(84.1%)、疲労(62.9%超)、頭痛(55.1%超)、筋肉痛(38.3%超)、悪寒(31.9%超)、関節痛(23.6%超)、発熱(14.2%)、注射部位腫脹(10.5%)、注射部位発赤(9.5%)、悪心(1.1%)、倦怠感(0.5%)、リンパ節症(0.3%)でした。外部データモニタリング委員会(DMC)から、現時点でワクチンに関連する重篤な安全性の懸念は報告されていません。

またウイルス感染後にみられる一時的な顔面麻痺(ベル麻痺)との関連も見られないとの見解です。

 

日本国内における臨床試験 (C4591005 試験) での副反応について

20歳以上85歳以下の日本人健康成人を対象に2回接種が行われました。内訳は160例(本剤接種群:119例、プラセボ接種群:41例)です。日本人における副反応は下記のように報告されています。

 

最も多かった副反応である注射部位の疼痛は接種当日から翌日の間に発現し、持続期間は2日(中央値)でした。

 

 

ワクチンの予防効果はいつまで続くか

2021年において日本で接種するワクチンはこのファイザー社製です。3週間あけて2回接種します。このワクチンによる予防効果がいつまで続くのかはこれからみていかなければなりません。効果が減弱していくようであれば 3回接種するということもあり得ます。また変異株に対応した第2世代のワクチンも出てくると思います。

ファイザー社製ワクチンの効果が少なくとも6ヶ月持続することを示した論文を紹介します。

Antibody Persistence through 6 Months after the Second Dose of mRNA-1273 Vaccine for Covid-19

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2103916

この論文では2回接種後の180日にわたって各世代 33名(内訳 18-55 歳 15名、56−70 歳 9名、71歳以上 9名)におけるスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD: Receptor Binding Protein)に対する抗体(下図上)とコロナウイルスに対する50% 阻害希釈倍率すなわち中和作用(下図下)を調べています。

 

 

この論文からこのワクチンを接種することによって少なくとも6ヶ月は予防効果が期待されます。もちろんワクチンを接種しても抗体ができにくい人もいるためこの少人数での結果で全てを言い表すことはできないこと、ワクチンを接種したからといってコロナウイルスにかからないとは言えないことに注意が必要です。

 

 

 

アナフィラキシーについて

ワクチンを接種するにあたって世界中の人々が最も脅威に感じているアナフィラキシーについて触れてみます。

アナフィラキシーの症状

アナフィラキシーは特定のアレルゲンに曝露した後の数秒から数分内に以下の症状が起こってきます。

皮膚症状

蕁麻疹、紅斑、血管浮腫による口唇、舌の腫脹

呼吸器症状

喘鳴(気管支痙攣による収縮)、頻呼吸、チアノーゼ(皮膚・粘膜が青紫色)、嗄声、呼吸苦、乾いた咳、くしゃみ、鼻汁

循環器症状

血圧低下、頻脈、意識低下

消化器症状

悪心嘔吐、腹痛、下痢

 

アナフィラキシーの診断

世界ではBrighton分類が用いられています。原文はこちらになります。

https://brightoncollaboration.us/anaphylaxis-case-definition-companion-guide/

あるアレルゲンにさらされてから突然発症し、見る見るうちに上記の複数症状が進行していきます。下記表のメジャー症状とマイナー症状の組み合わせによってレベルがつけられます。レベル1から3までがアナフィラキシーと診断されます。

またワクチン接種により現れる症状のうち接種部位の腫脹、発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛、関節痛などは接種後数時間から数日間にわたって一過性にみられる現象でワクチンによる正常な免疫応答によると考えられています。

 

 

 

 

米国におけるファイザー社製ワクチンによるアナフィラキシーの報告

2020年末米国ではおよそ1000万人の方がファイザー社製ワクチンを接種しました。

そのうち47名の方がアナフィラキシーを発症しています。

女性が9割以上を占め、47名のうちアレルギー疾患を持っている方が36名でした。

また接種1回目から37名がアナフィラキシーを起こしています。2回目では4名です。当然1回目起こした方は2回目を接種していないと思われます。

よく言われていることですが、ワクチンは体調が悪い時には控える、アレルギーを持っている方は接種前にあらかじめ伝えておくことがもしものために重要であると思います。

接種場所ではワクチン接種経験を持った医師が常駐しており血圧計、聴診器、もし症状が出た際の酸素吸入、血圧低下に備えたアドレナリン注射、全身アレルギーを改善させるステロイド点滴などが備えてあります。

 

 

 

 

輸送と保存に関する特殊性

米国の3工場で生産され日本へ空輸されてきます。専用の保冷箱に5日ごとにドライアイスを再充填することで、推奨される保存条件 (-70°C ± 10°C)を最大30日間維持できます。各保冷箱には位置と温度を常に追跡するGPS付き温度センサーが入っており、解凍後は、冷蔵条件(2~8°C)で最大5日間保存できるとのことです。

 

 

⑤ 今後の課題と問題点: まだ知らないことがあるかもしれないという不安

 

2021年春にファイザー社製のコロナウイルスワクチンを接種しようかどうか迷っておられる方もたくさんおられると思います。

1. 我々が経験したことのないmRNAワクチンが発病を防ぐ有効性を示す報告が出てきたとはいえ副反応や長期的にどのように影響するのかわかっていないこと

2. 日本ではワクチンを接種しなくても欧米諸国に比して重症化率が低いために多くの国民が接種しようという気運が生まれにくいこと

が積極的にワクチン接種を受ける動機につながらないのだと思います。

下記にコロナウイルスで猛威を振るっている米国でワクチンを接種したくない人の年齢層別の割合と理由を引用します。

 

 

2021年1月に行われた国別のワクチン接種希望に関する調査ではやはり日本は積極的に接種したい人の割合が低いようです(下図赤線)。さらに下位にはロシアがありますが自国の医療システムに対する不信が根底にあるといわれています。

 

 

いま世界で最もコミナティワクチン接種が行われているイスラエルからの報告

2021年2月最もこのファイザー社製ワクチンを接種しているイスラエルからの報告を見ますとやはりワクチンを接種することによって1週間から目に見えて減少し3週間もすると感染しなくなるようです。

 

ただ下図にありますようにワクチンを多くの人が接種しているにもかかわらず 60歳以上では感染、入院、重症化が減少していますが 60歳未満では2021年2月において入院と重症化の割合が増加しています(下図赤丸)。

 

このことを説明するにあたり60歳未満ではワクチンを接種したために入院や重症化が増加したのでしょうか?

答えは違う可能性が高いです。

イスラエルのデモグラフィーをみると日本の少子高齢化とは異なり若い人が多く高齢者が少ないです。下図左の統計をみると60歳以上のワクチン接種率が高く、60歳未満の接種率が低いことがわかります。つまり60才未満の入院と重症化が増加している原因はワクチンそのものにあるのではなく、ワクチンを接種していない人口多数を占める若者がかかってしまっている可能性を考えたいところです。

2021年2月イスラエルにおける流行種は80−90%がB.117(英国Kent変異種)ということでありこのワクチンは変異種 B.117 にも効果がある可能性が高いと思われます。

 

 

 

 

ファイザー社製ワクチンは 1回接種で充分な免疫が得られるか?

Effect of previous SARS-CoV-2 infection on humoral and T-cell responses to single-dose BNT162b2 vaccine

DOI:  https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)00502-X

この論文では未感染者と既感染者にファイザー社製ワクチンを1回接種して 3週間後のスパイクタンパク質に結合する抗体価(コロナウイルスが人の細胞に侵入するトゲの部分に対する免疫力)をみています。

 

 

赤丸で囲んであるように未感染者の1回接種では充分な抗体が得られていない、特に50歳以上では抗体価が低いことが分かります。充分な免疫を獲得するためには 2回接種が推奨されています。1回目の接種で免疫システムに働きかけ (prime the immune sysytem)、2回目の接種で免疫機能を強化する (boost it) 役割があります。3回接種の効果も検討されています。

 

 

ウイルスベクターワクチンの歴史とジョンソン・エンド・ジョンソン社ワクチンについて

ファイザー社やモデルナ社の開発したmRNAワクチンと異なり、ジョンソン・エンド・ジョンソン社 (J&J) 社のワクチンはウイルスベクターを用いたワクチンです。ウイルスベクターには運び屋という意味合いがあります。

無毒のアデノウイルスの中にコロナウイルスのスパイクタンパク質(トゲの部分)の遺伝子を組み込み、接種することでヒト細胞内に送り込み、コロナウイルスのスパイクタンパク質を作らせ、それに対する抗体を作らせたり免疫を誘導させたりするワクチンです(下図)。

 

 

 

実はこの無害なウイルスに運ばせるウイルスベクターワクチンは1970年代から発想がありました。1990年代に食用の家禽類を守るために作られたのが最初です。ヒトに対してはMerck&Co. 社が 2007年にHIVウイルスに対してワクチンを作りましたが有効性を得られず開発中止となりました。2019年になりJ&J 社が 4年の歳月をかけてエボラ出血熱に対してワクチンを作り有効性が認められ初めてFDA(アメリカ食品医薬局)の承認がおりました。これまでにのべ10万人以上の方がウイルスベクターを用いたエボラ出血熱ワクチンの接種を受けています。今回のJ&J社のコロナウイルスワクチンもこのエボラ出血熱ワクチンの開発手法を生かしたワクチンになります。

 

効果に関しては他の2社が開発したmRNAワクチンよりも劣ると言われていますが、治験の少人数でのデータであり今後詳細が検討されていくことになります。直接比較した試験はまだありません。また臨床治験が行われた時期やその時の流行変異種の違いが有効性の違いに影響しているとも言われています。

J&J社製のウイルスベクターワクチンは mRNAワクチンと異なり1回接種で効果が得られること、輸送に関わる温度管理が煩雑でないことが利点として挙げられます。

 

 

 

Astra Zeneca 社製ワクチン接種による血栓症の報告

Astra Zeneca 社製のワクチン(ウイルスベクターワクチン)を接種したことに伴う血栓症の有害事象が報告されました。

A Prothrombotic Thrombocytopenic Disorder Resembling Heparin-Induced Thrombocytopenia Following Coronavirus-19 Vaccination

 

ドイツとオーストリアからの報告で 9名の方がこのワクチンを接種後に血栓症を起こしました。

内訳は女性8名、年齢は22−49歳(平均36歳)です。

接種してから4−16日後に症状が出現しています。

脳、肺、脾臓に血栓が生じています。9名のうち 7名に脳の静脈に血栓を起こす脳静脈血栓症を来たしています。

脳血栓といえば不整脈のひとつである心房細動により動脈を介して脳に血栓が飛んでいく脳動脈血栓症が知られていますが、脳静脈血栓症は実際の臨床ではあまりみられません。頻度は10万人あたり0.4人と言われています。この脳静脈血栓症は特異的な症状がなく多岐に及び、また進行も様々であるために早期にこの疾患を疑って的確に診断していくことは難しいと思われます。

またこのワクチンによる静脈血栓の局在がどうして下肢ではなく脳に多いのかも不明であり、ワクチンとの因果関係とともに解明が待たれます。

 

 

推定される血栓形成の機序

この論文調査では残念なことに4名の方が亡くなられています。

この4名の方の血液を調べてみるとHIT抗体と呼ばれる血小板第 4因子 (PF-4)とヘパリンの複合体に対する抗体反応が強いことがわかりました。

ヘパリンは血液が凝固しないように用いる薬剤です。しかしヘパリンを用いることにより逆に血液が凝固してしまうヘパリン起因性血小板減少症という稀でありながら重篤な副作用が知られており、ワクチン接種後に血栓を起こす病態と類似しているというのです。

機序としてはへパリンが体内に入るとヘパリンとPF-4の複合体が形成されます。それに対する抗ヘパリン/PF-4 抗体が産生されます。Fcレセプターを介して血小板に結合して血小板を活性化させます。さらに血管内皮の組織因子の発現を増加させ、トロンビンを過剰産生させて血栓を促成し塞栓症を起こすものと推定されています。

 

 

以前ヘパリンという点滴を使って血小板が減少したことのある方はこのワクチンを接種するにあたって血栓症に対する注意を要するものと考えられます。

 

 

 

ワクチンは変異株に効くか?

ウイルスは変異し続けている

下記の図は 2020年 4月から12月にわたってウイルスの変異とその割合を示したものです。ウイルスも変異しながら生き延びていく様子が分かります。その中で11月よりB.1.1.7 英国変異株が発生しその後世界へ広がっていくことになります。

 

 

 

今起きている変異について

変異の中でとりわけヒトの細胞に侵入する棘の部分に当たるスパイクタンパク質の変異(下図右赤部分)が重要視されています。スパイクタンパク質の変異によりワクチンで作られた抗体が効かなかったり、今までかかったことのある人において免疫で抑えきれず再感染をおこすことがあるかもしれないからです。

 

 

新型コロナウイルスは増殖していく中でおよそ3万塩基あるゲノムのどこかに変異が起きてきます。特に人のACE2 受容体(上図青)に結合するスパイクタンパク質(上図赤)のアミノ酸配列に変化が起きるとワクチンの有効性や感染性に影響を与える可能性があります。

変異していく速度は今のところ12日前後に1回起きているという報告があり、これはインフルエンザウイルスの変異速度の約半分、HIVウイルスの変異速度の約 1/4 と言われています。変異速度は地球上に住む生物の感染状況によってこれから変動していくと思われます。

 

 

変異の中で N501Y 変異(スパイクタンパク質の501番目のアミノ酸がアスパラギンがチロシンに置換される)が2020年11月以降見られるようになりました。英国株、南アフリカ株、ブラジル株といわれるもので急速に広まってきています。

また E484K 変異(スパイクタンパク質の484番目のアミノ酸がグルタミン酸からリジンに置換される)も変異として注視されています。スパイクタンパク質の構造が変化して人の細胞に結合しやすくなるだけでなく、N501Y変異と組み合わさることによって免疫を逃避する可能性が指摘されています。

 

 

変異株に対するワクチン効果

ワクチン接種率が低いうちは集団免疫が得られないために絶えず変異していくこのウイルスに対してワクチンが効くのかどうか絶えず検証が必要です。

変異株に対するファイザー社製ワクチンの予防効果をみた論文を紹介します。

Neutralizing Activity of BNT162b2-Elicited Serum DOI: 10.1056/NEJMc2103916

https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMc2102017?articleTools=true

 

 

この論文ではファイザー社製ワクチンを2回接種した 2-4 週後の20の血清から変異株に対する中和活性をみています。

B.1.351 南アフリカ変異株はこのワクチンによる中和活性が低いことが分かります。

またスパイクタンパク質の中でもN terminal domain (N末端領域)の変異よりもReceptor Binding Domain(受容体結合領域)の方が中和活性の低下に寄与していることが示唆されます。遺伝子配列を見るとこのN terminal domain とReceptor Binding Domain は近い位置にあります。

血清を用いたワクチンの効果判定に際して中和活性だけで評価するのではなく、④ ファイザー社製のmRNA ワクチン(コミナティ筋注)の効果、副反応、持続期間についての項で上述したようにCD8陽性T細胞による免疫も考慮する必要があります。

 

 

 

ワクチンはマスクと同じように地域に対するエチケットとなりうるのか?

南アフリカ共和国内において南アフリカ変異株(下図赤)は  2ヶ月余りであっという間に広がり従来株(下図灰色)から置き換わってしまったことを下図から見てとれます。変異株の広がりは早いです。

 

変異株は感染力を増し、一度罹った人にも再感染するリスクが高まり、ワクチンの効果を減弱させる可能性があります。

安全性が充分担保されれば、多くの方がワクチンを接種する事により自分が罹りにくくなるだけでなく、地域に感染を広げない、変異株を生まれさせないということも期待されます。

 

また大切な情報等ありましたら報告いたします。

皆さんと一緒にこの感染症を乗り越えていきましょう。

 

文責 植村 健 http://www.koseikai-uemura.jp/

 

 

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