新型コロナウイルスによる急性腎障害について

 

コロナウイルス感染による腎臓への影響についてみていきましょう。

 

コロナウイルスにかかると腎臓に障害が出てくることが知られています。時に生命を脅かすこともあり、そのひとつが急性腎障害 (Acute Kidney Injury : AKI )です。蛋白尿が出たり、尿が出なくなるなど急速に腎機能が低下する病態です。つまり体内の不要物を尿から捨てられなくなり体内に不要物が蓄積してしまうのです。

 

急性腎障害の定義

① 48時間以内に血清クレアチニンが 0.3mg/dl以上上昇すること

② 元々の血清クレアチニン値から1.5倍以上上昇すること

③ 体重60㎏の人が1時間あたりの尿量30ml 以下が6時間以上続くこと

のいずれか一つがあてはまると診断されます。血清クレアチニンといえば特定健康診断などでeGFR(推算糸球体濾過量)とともに採血項目で良く知られています。

 

急性腎障害はコロナウイルス感染重症者の5-23%にみられており、典型的な急性腎障害は発症してから2週間の間に起こってきます。重症化する背景に慢性腎臓病(CKD)の存在が関連していると言われています。

 

 

 

腎臓の役割

腎臓は左右両方にあり、心臓が出す血液の20-25%が腎臓に送られてきます。その血液には腎臓が働いていく上での大切な酸素が含まれています。また腎臓の大切な役割の一つとして不要になった物質を血液から濾過して尿として捨てることです。その濾過する場所が糸球体です(上図)。糸球体から濾過された原尿は尿細管に流れていきます。体内の水分や電解質が一定になるように原尿は尿細管で再吸収されていきます。再吸収されなかったものが最終的に尿として排出されていきます。

ちなみに糸球体と尿細管の組み合わせがネフロンと言われ、各腎臓に約100万個存在しています。

 

 

コロナウイルスによる急性腎障害のメカニズム

 

ウイルス自体が糸球体、尿細管にダメージを起こすことが知られています。コロナウイルスが最初に細胞に侵入する受容体であるACE2 (アンギオテンシン変換酵素2) が腎臓の糸球体と尿細管の上皮細胞にあり、ウイルスが局在していることが電子顕微鏡で確認されています。ウイルスそのものが糸球体と尿細管を壊して急性尿細管壊死を起こし急性腎障害を来たす可能性が言われています。

 

② 細胞や細胞の周囲がダメージを受けるとその放出された成分(damage-associated molecular patterns: DAMPS)から免疫応答が起こってきます。そして炎症反応や血栓が形成されていきます。糸球体内に血栓が多発すると糸球体やその周辺が壊死して腎障害を来たす可能性があります。

 

心腎連関:心臓と腎臓は密接な関わり合いを持っています。心臓が弱ると腎臓に影響し、また腎臓が弱ると心臓に影響することが知られており心腎連関と言われています。

腎虚血(心臓から送られる方):別項のコロナウイルスによる心臓への影響で触れましたように今回のコロナウイルス感染では急性心筋炎や急性冠症候群などの心臓の病気が発症し心臓の働きを弱めます。心臓のポンプ機能が低下すると酸素が多く含まれた血液が腎臓に来なくなります。そのために腎臓の細胞が虚血におちいり腎機能が低下していきます。

腎うっ血(心臓に戻る方):また心臓が弱ると各臓器から心臓に血液が戻ってこられなくなり、静脈に血液が溜まっていきます。いわゆるむくみやうっ血のことです。すると静脈の圧が高まり腎臓からの血液も心臓に返ってこられなくなり腎臓に血液がたまって腎機能低下を来たします。

 

敗血症性ショック:感染が長引くと点滴をしても血圧低下した状態が持続し、血液中の乳酸が多くなり酸性化してきます。収縮期血圧が90mmHg未満もしくは通常の血圧より40mmHg以上の低下で診断されます。血圧が低下すると腎臓への血液が少なくなり尿が出なくなり腎臓が弱っていきます。

 

脱水:発熱、下痢、食欲低下により体液量が少なくなります。すると腎臓への血液量も減ります。

 

横紋融解症:骨格筋の破壊により筋由来のミオグロビンやCPK(クレアチニンホスホキナーゼ)が血中へ流出して、尿細管を閉塞して腎機能が低下する病態です。

交通外傷や打撲などによる外傷性と感染などによる非外傷性に分かれます。

感染による横紋筋融解症にはインフルエンザウイルス、HIVウイルス、ヘルペスウイルス、エンテロウイルスなどが知られていますが今回のコロナウイルス感染においても約 1割にみられています。症状は筋肉痛や筋力低下です。ウイルス自体が筋肉に浸潤する、サイトカインが筋肉を損傷させる機序が想定されています。通常血液中のCPKは230U/Lを超えませんが、13,500 U/L 上昇する例も報告されています。

大量のミオグロビンが腎臓に流入すると糸球体が処理できなくなり酸性尿と相まって結晶が尿細管を閉塞し傷害されていきます。白血球の一部であるマクロファージも関与しているという報告やミオグロビン自体が血管を収縮させて虚血におちいるという報告もあります。

 

コロナウイルスによる急性腎障害に関する新しい機序や詳細がこれから分かってくるかもしれません。また重要な論文がありましたら紹介させてください。

 

 

文責 植村 健 http://www.koseikai-uemura.jp/

 

 

下記もご関心がありましたらご参照ください。

http://ko-island.yokatoko.com/pr/uemura/2020/05/28/新型コロナウイルス感染症と心臓について/

http://ko-island.yokatoko.com/pr/uemura/2020/05/03/コロナウイルスの症状と診断について/

http://ko-island.yokatoko.com/pr/uemura/2020/05/02/新型コロナウイルスの性質%e3%80%80/

http://ko-island.yokatoko.com/pr/uemura/2020/05/02/コロナウイルスにかからないようにするために/

http://ko-island.yokatoko.com/pr/uemura/2020/05/01/コロナウイルスに対する治療の試み/

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