下痢について

 

下痢の病態と対応について

みなさんの中には下痢をして何回もお手洗いに駆け込んだり、お腹が痛くなったり、発熱したりした経験のある方がおられると思います。

今回は下痢について学びながら一緒に理解を深めていきたいと思います。

 

まず腸の役割についてですが、下図にありますように食べ物が胃を通った後に小腸で栄養の消化吸収が行われ、その後に大腸で水分の吸収が行われます。口から摂取した水分以外に約 8 リットルもの消化液が出ては、腸で再吸収されていることを知るとあらためてその量の多さに驚くとともに、下痢に伴う脱水や体へのダメージについて時に慎重に診ていかなければならないことに気付かされます。

 

 

② どうして下痢が起きるのか? 下痢が起こるメカニズムから以下に分類されます。

1. 炎症に伴う下痢 Inflammatory Diarrheas

感染や炎症に伴い腸管の粘膜が直接障害されたり、放たれる毒素により炎症が強くなったりして下痢が起こります。

2. 浸透圧性下痢 Osmotic Diarrheas

吸収されにくい乳糖、ソルビトール、キシリトールなどの摂取により浸透圧の原理で水分が腸管に浸み出して、下痢がおこります。よく便秘の時に内服する酸化マグネシウムはこの原理を利用して便を軟らかくさせています。

3. 分泌性下痢 Secretory Diarrheas

アルコール飲酒、薬剤、胆嚢の異常、消化に関わるホルモンの異常などにより腸が刺激されて腸管内に過剰に水分がでます。

4. 腸管運動異常に伴う下痢 Dysmotile Diarrheas

ストレス、甲状腺ホルモンの異常、糖尿病などにより腸の動きが活発になったり、低下したりした場合に下痢を来たします。

 

続いて平成23年に厚生労働省に報告された主な食中毒の病因物質についてみてみましょう。

ノロウイルス Norovirus 

特に冬に流行し、嘔気嘔吐を伴うことが多いです。潜伏期間は24-48時間。原因食品の特定が難しく、食品から直接ウイルスを検出することは困難です。平成24年4月よりノロウイルスに対する糞便中の遺伝子検査が保険収載され、3歳未満、65歳以上の患者様に対して検査が可能となりました。

牡蠣などの二枚貝を扱う時は調理器具をその都度洗浄することが望ましいです。 もし嘔吐、下痢が起きた場合は手袋を使って対応してください。乾燥するとウイルスが空中に舞うために、次亜塩素酸ナトリウム(ハイターなど)できれいにふき取ってください。 リネンに封着した場合は85度1分の熱水洗濯が推奨されていますが、水すすぎ、高温乾燥器でも殺菌効果が高まると言われています。

腸管出血性大腸菌  Enterohemorrhagic Escherichia coli

大腸菌のほとんどは無害ですが、0-157など毒素を出すものがあり、溶血性尿毒症症候群や腸管出血など重症化することがあります。井戸水、牛肉、野菜など様々な食品から見つかっています。気温が高い時期に多く、75℃で1分間以上の加熱、次亜塩素酸で死滅します。潜伏期は3-8日をおいて水様性下痢から発症することが多く、血便を伴った強い腹痛、急激な尿量減少には注意を要します

カンピロバクター  Campylobacter

感染源は鶏生肉、牛生肉、井戸水が多く、海外では生乳製品からの報告もあります。

通常の加熱調理(中心部を75℃以上で1分間以上加熱)を行えば死滅します。潜伏期間24-72時間で自然軽快することが多いと言われています。

サルモネラ Salmonella

生卵、卵料理からの感染が多く報告されています。潜伏期24-72時間で、小腸にも炎症が及ぶために嘔吐を伴うことが多いです。小児、高齢者では重症化することがあります。

 

④ 下痢にならないための、または下痢を拡大させないための予防策

外出先から帰ったら手洗いを行う習慣をつけてください。

嘔吐下痢の際は直接食品に触れることは控えてください。

食品の鮮度に気を付けて、必要に応じて加熱処理を行ってください。

 

⑤ 下痢になったら何を食べたら良いか?

下痢に伴う水分と電解質(ナトリウム、カリウムなど)の喪失が身体に悪影響を及ぼすことがあります。

お粥、うどん、白身魚、ポカリスエット、すりおろしたリンゴ、バナナなど少量から摂取して下さい。また冷やしすぎないことも大切です。最近では水分と電解質を補給する経口保水液であるオーエスワンも発売されています。

 

避けるものとして、揚げ物、脂っこいもの、香辛料、コーヒー、乳製品、スナック、海藻類は控えてください。

 

⑥ どういう時に医療機関を受診すればよいか?

下痢の回数が一日10回以上の時、38度以上の高熱を伴う時、腹痛が強い時、血液の便が出る時、倦怠感が強い時など早目にお近くの医療機関を受診して下さい。

参考文献

1. M Camilleri et al. Diarrhea and Constipation. Harrison’s Principles of internal medicine 17th edition 245-255.

2. D.W.Powell. Approach to the patients with diarrhea. Principles of Gastroenterology 305-359.

 

文責 植村 健  http://www.koseikai-uemura.jp/

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